女性Aの場合 |
夏と言えば夏祭り。
そう思うのは私だけでしょうか?
そんなことはないでしょう。
だって、夏の暑さも和らぐ闇夜の中、人々の活気であふれるあの空間にいるだけで楽しい気持ちになれるんですもの。
そんな夏祭りは私の夏の一大イベントです♪
夏休みももう残りわずかになった八月の下旬、私の家の隣に一人の大学生が引っ越してきました。
彼はとても礼儀正しく、それでいて明るいとても感じの良い青年です。
この前うちに挨拶に来たときも、とっても親切かつ楽しく話すことができたんですよ♪
私はすぐ彼と仲良しになりました。
あっ、けして恋愛対象とかそういう意味ではないんですよ♪
なんていうか、すっごくいい友達になれたんです。
そう、すごくいい友達に・・・・・
「こんにちわ!」
私が庭で花に水を与えていると、彼は私に挨拶をしてきました。
彼が隣に引っ越してきてからの毎日の日課みたいになってるみたいです。
「こんにちわ♪」
私はいつも軽快に返答します。
だって、軽快に返答せずにはいられないんです。
なんかそんな気分にさせてくれるんです。
彼は。
その日も私は彼と庭でお話をしてたんです。
何でも彼はまだこの町に馴染めてないみたいで、困っているらしいんです。
だから私は「それじゃあこれからいっしょに散歩でもしませんか?」って彼を散歩に誘ったんです。
彼はうれしそうに快諾してくれました。
それじゃあさっそく、っていう感じで彼は散歩にいく準備をしに彼の家に入っていきました。
散歩に必要な準備ってなんだろう?って思ったんですけど、彼が持ってきたものを見て「なるほど!」って思っちゃいました。
彼はカメラを持ってきたんです。
それも、なんかプロの人が使いそうなすごく大きいカメラを。
私はせっかく「なるほど!」って思ったのに、すぐに彼を見て笑っちゃいました。
だって今にも落ちそうなカメラを必死になって抱えているんですもの。
なんかその姿が微笑ましくって。
彼はそんな私を見てムスッとした表情をしたんですけど、すぐに笑顔に戻って「それじゃあ行きましょうか!」って言いました。
「そうですね♪」
私は何故かとてもうきうきしていました。
ただの散歩なんですけどね。
私はまず彼をいろんなサイトスポットに連れていきました。
小高い丘の上、澄み渡る海岸、一面の花畑、そして噴水がある公園。
彼はどの場所も気に入ったみたいでした。
だって一生懸命カメラで写真を撮っていたんですよ♪
とっても彼が生き生きして見えました。
お散歩は大成功のうちに幕を閉じました。
私は回覧板がまわってくるのを楽しみにしていました。
だって今度まわって来る回覧板に夏祭りの日程が書かれているんですもの。
それは楽しみになりますよ♪
そしてついに来たんです!回覧板が♪
私はまわってきた回覧板を待ってましたとばかりに開いたんです。
そしたら・・・ありました!夏祭りの日程♪
八月二十九日。ちょうど四日後です。
私はその日から八月二十九日が来るのを楽しみにし始めました。
次の日、その日も相変わらずの庭挨拶を彼としていました。
彼も昨日夏祭りの話を知ったらしく、私は夏祭りの話で彼と盛り上がりました。
「三日後に夏祭りがあるんですね」
「そうよ♪私は今からもう楽しみで楽しみで」
「何処でやるんでしたっけ?夏祭り」
「この前お散歩したときに行った噴水がある公園よ」
「ああ、あの公園ですか、確かにあの公園なら人がいっぱい集まれますね」
「そうよ!人の活気であふれた夏祭り、たまらないわよ♪」
「へぇ〜、それは今から楽しみですね」
「ねぇ、よかったら一緒に夏祭り行く?」
「えっ?俺とですか?」
「・・・あっ、ごめんなさい。彼女と一緒に行かないとね♪」
「いえ、彼女はいないんで。こちらこそ良かったらご一緒しましょう」
「そう、良かった!じゃあますます楽しみになってきたわ♪」
「そうですね」
なんかいつのまにか彼と夏祭りに行く約束をしてた。
夏祭りの日、私はさっそく彼の家に行ったの。
彼は相変わらずのカメラをもってドアから出てきたわ♪
やっぱりなんか笑っちゃうのよね、あの姿を見てると。
彼は私に「お待たせしてすいません」って言うと、「それじゃあさっそく行きましょうか」と言って、私を夏祭り会場へと促した。
私は足取りも軽やかに、夏祭り会場への道を進み始めた。
夏祭り会場へ着くと、もうそこは大勢の人で賑わっていた。
かき氷、りんご飴、チョコバナナに焼きそば、射的に輪投げ、お面に綿飴。
とにかくいろんな屋台が出て、その賑わいをよりいっそう大きなものにしている。
そして何より真ん中の台の上で太鼓が鳴り、台の周りで踊りを踊る。
これぞ夏祭り!って感じでしょ♪
私は真っ先にりんご飴を買いにりんご飴の屋台に向かった。
彼も私について来る。
私がお目当てのりんご飴をゲットし、満足そうになめていると、
パシャ☆
何?って思ったけどすぐにわかった。
彼が写真を撮ってたの。
それも私がりんご飴を満足そうになめているところを。
「ちょっとやめてよ♪恥ずかしいじゃない」
「いや、なんかとても幸せそうだったからつい」
彼があまりにもうれしそうに言うから私は言い返す気がなくなっちゃった。
「まぁいいけど・・・写真を撮りたいならもっといい被写体があるわよ♪」
「えっ、なんですか?」
「ここ全体よ。この夏祭りそのものが絶好の被写体じゃない♪」
私が自分でも何言ってるんだろうと思うようなことを言うと、彼は目を輝かせて言った。
「そうですね!・・・あの、近くにこの夏祭り会場を一望することができる場所ってありますか?」
「えぇ、あるわよ」
「ぜひ教えてください!」
「う〜ん、説明しにくいんだけどなぁ、あの場所。・・・しかたない!じゃあ私についてきて♪」
何でだろう?
何で彼にここまでしてあげなきゃいけないんだろう?
疑問には思うけど、けして不快な気分ではないし。
まぁいいか。
私は彼を絶好の場所へ連れていった。
そこは夏祭り会場を見下ろすことができるまさしく絶好の場所だった。
彼はカメラをセットするとうれしそうに絶好の被写体にカメラを向け、その写真を撮っていた。
本当にうれしそうだった。
私はその顔を見ているだけで夏祭りに来てよかったなぁと思えた。
いつもとは違う喜びだ。
私は彼の隣にしゃがみこみ、夏祭り会場を見下ろしていた。
彼のシャッター音は鳴り続ける。
しかし突然カメラのシャッター音が止まった。
「どうしたの?撮り終えたの?」
私がそう言いながら彼の方を向くと、彼は私に二本の線香花火を差し出した。
「これ、やりませんか?」
「へぇ〜、線香花火かぁ〜。いいの、もらって?」
「えぇ、もちろん」
「じゃあお言葉に甘えて♪」
私は彼から一本の線香花火を受け取った。
「え〜っと、火はどうしようか?」
「これでつけましょう」
そう言うと彼はライターを取り出し、私の線香花火に火をつけた。
私はしゃがんだ体制のまま線香花火の運命を見守る。
最初穏やかだった火花は、やがてその強さを微妙に増していく。
その線香花火の可憐さに、つい私は線香花火に見とれてしまった。
パシャ☆
カメラのシャッター音が鳴る。
私に向けて切ったシャッターの音が。
私はもう驚いたりはしなかった。
むしろこの線香花火の命の時に酔いしれ、そして彼との時間に酔いしれていたのかもしれない。
何故だかはわからないけど。
ただこの時が写真という形で残るという事実がうれしかった。
彼は言った。
「ここの景色は最高でした。でも線香花火をしているあなたも最高でしたよ」
「あら、あなたナルシストだったの?」
「そ、そうじゃないですよ。ただ本当にそう思っただけなんですから」
「ふふ、ありがと♪」
そのあとしばらくは夏祭りの風景に酔いしれていた。
私達は夏祭り会場に戻った。
そしてクライマックスに備える。
『くじ引き』だ。
あらかじめ回覧板で配られていたくじ引き用紙に住所、氏名、年齢を書いてくじ引きの箱にあらかじめ入れておく。
そのくじが、まもなく引かれようとしているのよ!
そして運命のときは始まり、そして終わった。
結果は・・・・・
「あ〜あ、残念だったな〜」
「まぁしかたないですよ。あれだけの人数がいたんですし」
私達のくじは見事に引かれなかった。
まぁ当然と言えば当然なのかもしれないけど。
「でも面白かったわね!夏祭り♪」
「えぇ。本当に来てよかったですよ。写真もいっぱい撮れましたし」
「本当にいっぱい撮ってたものね」
なんだかんだ話しているうちに私達は家へと到着した。
そして私達はそれぞれの家へと戻った。
それから一ヶ月後・・・・・
私のもとに彼がやってきた。
庭でよく合うのにわざわざ玄関から。
彼は一枚の大きな写真を持ってきていた。
それは私が線香花火をしている時を撮った写真だ。
彼は・・・意を決したかのように言葉を口にした。
「また一緒に夏祭りに行きませんか・・・今度は・・・恋人同志として・・・・・」
彼は写真を差し出した。
私は・・・その写真を受け入れた・・・・・
「ねぇ〜!はやくはやく!!」
「ちょっと待ってくださいよ」
「だ〜め!早く行かなきゃ♪」
「そうですね。じゃあ行きましょうか。夏祭りの会場へ」
「ちょっとまって!あれ・・・持った?」
「・・・もちろん。カメラに・・・二本の線香花火・・・・・」
End