錬金術師の塔


ソードマスターは無敵。

どんな強敵が現れようと敗北の2文字は無い。

しかしそんなソードマスターにも欠点はある。

欠点の無い人間なんていないのだから。

まぁソードマスターのそれを欠点と言っていいかはわからないが・・・・・


伝記『ソードマスター』より


激しく降り注ぐ太陽の日差しを浴びながらジェイは延々と続きそうな広大な砂漠を進んでいた。

360度どの方向を向いても見えるのは一面の砂畑。

太陽の日差しは生命体の体力を著しく消耗させる。

それはジェイ・・・ソードマスターといえども例外ではなかった。

こんななかでも着込んでいるライトアーマーの中は汗で濡れ、額のバンダナは出てくる汗を吸収して顔への進入を防いでいたがそれももう限界なくらい汗で濡れ、その紺の色を更に濃くしている。

足取りにはまだ余裕があるように見えるが、その顔は疲労の顔だ。

ジェイは砂漠を越えた街、センジェスを目指していた。

センジェスには「求人街」という区域があり、仕事を見つけるにはもってこいの場所なのだ。

ジェイは仕事を探していた。

以前「エルフの涙」で手に入れた金は装備品の手入れや食費などでほとんど使い切ってしまっている。

ジェイに金銭の余裕はない。

先を急ぐ。

太陽はまだ昇っている。



ジェイはひたすら歩いていた。

照りつける太陽はその威力を更に増し、体力の余裕までなくならせる。

しかしそんな中、生命を癒すことができる場所がその姿を現し始めた。

裸子植物が緑々と茂るオアシスだ。

ジェイの足取りは自然と速くなり、オアシスの全貌が徐々に明らかになっていく。

裸子植物には硬質の皮で覆われた実がなっていて、南国をイメージせずにはいられない。

清らかな泉は水が絶えることなく滾々と湧き出している。

ただこのオアシスに似合わないものが存在した。

一人の老いた男性が裸子植物に横たわりながら座っていたのだ。

その老人は片手に厚い本を持っている。

ただ老人は目を閉じたまま動かない。

ジェイは持っていた銀製の水筒に水を補給し、自らも水を補給するとその老人に向かっていった。

そして声をかけた。

「おい」

「・・・・・・・・・・」

「おい!」

「・・・・・・・・・・」

「いつまで寝てる!!」

「・・・・・ん?」

「ん?じゃねぇよ!いくらオアシスでもずっと寝てたら死ぬぞ!!」

「・・・すまんのう」

「ったく!・・・爺さんもセンジェスに行くのか?」

「わしは違う。わしは・・・」

爺さんは持っていた厚い本を開き、目的のページを見つけるとジェイに見せた。

そのページには砂漠に聳え立つ塔の絵と、小さな古文字が長々と書かれている。

「わしはこの塔を目指しているのじゃ」

「・・・何なんだこの塔は?」

「・・・錬金術師の塔じゃよ」

「・・・錬金術師の塔?」

「・・・そうじゃ。今からおよそ200年前に実在した錬金術師アル=レナードが建てた塔だといわれている。錬金術師の塔にはアルが錬金術によって生み出した金が隠されてるという」

「・・・錬金術師が生み出した金ねぇ」

「・・・・・あなたはあの有名なソードマスターとお見受けする。どうか私と一緒に錬金術師の塔に行ってはくれんか」

「・・・・・爺さん、あんた何者だ?」

「リル=レナード・・・アル=レナードの子孫じゃよ」

「そんなことを聞いているんじゃない!何で俺がソードマスターだとわかる!?」

「わしは何もせずに年老いたわけじゃない、ということじゃよ」

「・・・ところでアル=レナードの子孫ってことはその本は・・・・・」

「そうじゃ、これはアル自信が記した本じゃ」

「・・・でも本当にその塔に金なんてあるのか?その前に金を作ることなんて本当にできたのか?」

「・・・・・皆そう言う。しかしアルは絶対に金を作ることに成功したのじゃ!」

「・・・・・・・・・・」

「わしは・・・わしは真実を知りたいだけなのじゃ・・・・・」

「・・・俺は報酬の無い仕事はしない」

「・・・わかっておる。もし金が見つかったらその金をすべてお前にやろう」

「・・・仕事の内用は?」

「塔までの護衛と塔内に入って・・・」

リルは本のページをめくり、そしてある点を指差した。

「この塔の最上階にあるレバーを上げてほしいのじゃ。塔内には魔物がでるらしいからわしは塔の入り口で待っている。もし金を手に入れることができたらわしに見せてほしい」

「・・・塔のレバーはなぜ上げなければいけない?」

「この本にこう記してある・・・・・」



*私が記したこの本を読んでいるであろう我が子孫へ

*今から200の年月が経ちし日の昼に私が建てた塔の最上階にあるレバーを上げよ

*さすれば私が作りし金が塔の先端に姿を現すであろう

*我が子孫が有効に金を使ってくれることを願っている

*後を頼む・・・・・



「・・・つまりレバーを上げなければ金は姿を現さないということじゃ」

「・・・・・・・・・・」

「頼む!わしに真実を見せてくれ!!」

「・・・いいだろう。本来なら前払いじゃなければ俺は仕事を請けつけないんだがな」

「すまない・・・」

こうしてジェイとリルは錬金術師の塔を目指し始めた。



いったい錬金術師の塔っていうのはどれだけ進めばその姿を現すのだろうか?

ジェイはそのことばかりを考えていた。

時刻はもうすぐ正午。

歩いて歩いて歩き続けた。

しかしどれだけ進んでも錬金術師の塔は見えない。

「・・・おい爺さん!本当にこの方角であってるのか!?」

「・・・あぁ、間違い無いはずじゃ。本に記してあることが確かなら。つまり間違い無いということじゃ」

「・・・・・とにかく急がないと時間切れになるんじゃないのか?」

「そうじゃ!『昼に』と記してあるからには2時ぐらいが限度じゃろう」

「・・・ふぅ・・・急ぐぞ!!」

ジェイとリルは消耗し続けている体力を振り絞って先を急ぐ・・・

とは言ってもリルは元々体力の衰えが激しく、ジェイはリルの進むスピードに合わさなければならなかったのでジェイの体力はそれほど消耗してはいなかった。

しかしこのままでは間に合いそうにない・・・

「・・・おい爺さん、乗れ」

ジェイはそう言うとその場にしゃがみこみ、リルに背を向けた。

「・・・・・?」

「ほら!早く乗れ!!間に合わなくなるだろ!!」

「・・・・・口に似合わずやさしいところもあるんじゃな」

「勘違いするな!間に合わなければ俺の報酬がなくなってしまうだろ!それを避けたいだけだ!!」

「・・・まぁそういうことにしておくかのぅ」

「うだうだ言ってないで早く乗れ!!」

「わかっておる、そう急かすな」

「・・・まったく」

ジェイはリルを背中に乗せると勢いよく先を進みだした。

太陽はまだ昇っている。



リルを背中に乗せジェイは走っていた。

錬金術師の塔が見えてきたのだ。

先端しか見えていなかった塔は徐々にその全貌をあらわにしていく。

高く・・・高く・・・高く・・・高く・・・高くなっていく・・・ものすごい高さだ。

30メートルはある。

「はぁ、はぁ、はぁ、ついたぞ!!」

「おぉ、ついたか!」

「・・・それにしても高すぎないか!?」

「・・・確かに高いが行くしかなかろう」

「・・・・・ここで待ってろよ爺さん!」

「わかっておる!頑張ってこい!」

「・・・ったく」

ジェイは塔内に入っていった。



塔は高さはあるが中の構造はいたってシンプルだった。

向かって右側に螺旋状の階段があるだけだ。

上を見上げるとひたすら螺旋階段が続いていることがわかる。

「・・・・・よし!」

ジェイは覚悟を決めると螺旋階段を勢いよく上りだした。

タッタッタッタッ

靴音だけが塔内に鳴り響く。

一定感覚に右側に現れる小さな窓が、ジェイの感覚を狂わせる。

「くそっ!いったい何処まで続いてるんだよ!!」

同じ空間が続いてるように見えてストレスが溜まる。

そんな精神状態のときに追い討ちをかけるように魔物が現れた。

階段の先から大きな蜘蛛が3匹滑り込んできたのだ。

『チェックスパイダー』だ。

その名の通りチェック模様をした大きな蜘蛛。

色はさまざまでとてもカラフルで綺麗なところから『メイクスパイダー』とも呼ばれている。

今現れたチェックスパイダーは水色と黄色と紫色のチェック模様をしている。

しかし今のジェイにそのカラフルなチェック模様を眺めている余裕も気力もなかった。

「邪魔だ!鬱陶しいんだよ!!」

腰の長剣を1振り・・・2振り・・・3振り。

チェックスパイダーは鈍い音を立てその身を断たれる。

ジェイはその息を確かめることもせずに先へ進む。

チェックスパイダーのチェック模様は緑の体液で無残なものになっていた。



ジェイはひたすら階段を駆け上がる。

いったいどれだけ上ったのだろうか・・・

それすらわからないくらいに上っている。

しかし一向に最上階には到着しない。

眼前には同じ様に続く階段と壁しかない。

等間隔に現れる窓から漏れる日光の量が徐々に変化していっている。

急がなければ昼に間に合わない。

ジェイには先に進むことしかできなかった。



ジェイはやはり階段を駆け上がっていた。

しかし最初の勢いはもう見られない。

さすがに疲労の色を隠せないようだ。

しかし進むしかない。

進んでいる間に幾度もチェックスパイダーが出現した。

まぁジェイの敵ではなかったが。

ただそれでもジェイのストレスをためるには充分でジェイのストレスはピークに達していた。

・・・しかしそれももう終わるようだ。

「最上階か!!」

上に最上階が見えてきたのだ。

ジェイは気力を振り絞って残りの階段を上る。

・・・そして登りきった。



ジェイが辿り着いたその場所には鉄製と思われる錆びたテーブルと椅子、そして本棚。

本棚には大量の書物が常態よく保存されている。

そして・・・レバーだ。

ジェイの正面に下がった状態のレバーがあった。

このレバーも鉄製のようで、他のものと同じく錆びている。

ジェイはレバーの前へ行き、そしてレバーを上げようとする。

・・・・・錆びていてなかなか上がらない。

ジェイは懇親の力を込める。

ギィギギィ

レバーは心地悪い音を立てながらゆっくりと上がっていった。

・・・そしてレバーは完全に上がった状態になった。

すると・・・

グイィィィィン

球に何かの駆動音が聞こえたかと思うとジェイの右側に階段が現れた。

階段の先からは太陽の日差しが見えている。

どうやら屋上に続いているようだ。

更に屋上でも音がする。

ジェイは急いでその階段を駆け上がった。



屋上に上がったジェイを待っていたのは長く大きい鉄製のさおのようなものと、その先端にある旗だった。

旗にはなにか文字が記されているようだがジェイがいる場所からでは確認することができない。

・・・そんなものはどうでもよかった。

・・・・・金は・・・何処にも見当たらない。

「・・・まさかあのさおの先端にあるとでも言うのか?」

・・・そんなはずはない。

もしあったとしてもさおの先端に置くことができる金などたかが知れている。

「・・・ったく何が塔の先端だよ・・・ん?・・・まてよ」

ジェイは急に座りこんで考え出した。

「あの爺さんはなんで昼の時間を正確に言わなかったんだ?・・・正午じゃまずいのか・・・・・!!」

ジェイは何かに気づいたかと思うと急いで階段を下り始めた。

あの長い螺旋階段を今度はひたすら下る。

しかし今のジェイの階段を下る早さは何故か上りのときとは比べ物にならない。

行きで2時間以上かかった螺旋階段を1時間足らずで下りきってしまった。

そして急いで塔の外に出る。

・・・そこにリルはいなかった。

あるのは塔の入り口に張られている張り紙だけだった。

きっとリルが書いたものだろう。



*ごくろうじゃったのう

*おかげで無事に目的のものを手に入れることができた

*お前さんももうちょっと頭の回転がよかったらのぅ

*それじゃあ達者に生きるんじゃなソードマスター

*ば〜い 盗賊のアモン=モルド



「・・・・・クソジジイが!!」

ジェイはそう言いながらある場所へ向かう。

それは塔の影の先端付近。

影の先端からは少しずれていたが砂が掘り起こされた後があった。

だいぶ深くまで掘られている。

しかし掘られた幅はそれほどない。

「・・・本当に金だったのか?」

そう思わせるほど小さな鉄製の箱が掘られた後に残っていた。

「・・・まぁ今となってはあのジジイにしかわからねぇか・・・ったく今回はあの爺さんにまんまとやられたな」

影に映し出された旗がジェイを嘲笑うかのようにたなびいていた。

ジェイはあらぶる感情を押さえ、目的を替える。

「・・・ふぅ、とっととセンジェスに行って仕事でも探すか!」

ジェイは広大な砂漠を再び歩き出した・・・・・



ソードマスターは断ることを知らない。

・・・断ることができないのだ。

すべて報酬という口実をつけて引き受けてしまう。

それがソードマスターの欠点と言えば欠点なのかもしれない・・・・・



The end of this story is not yet.....