第27話〜feat. ASUKA TAKATO #2 [二人の秘密は×××]〜 |
ここはもう、俺にとっては一種の牢獄のようなものだった。
だが、けして閉じ込められているわけではない。
この『場所』自体からは、逃げようとすれば簡単に逃げ出せる状態。
想像とは違って、わりとシンプルな壁面。
テレビにカラオケ機材、部屋の広さにそぐわない大きさのキングサイズのベッド。
そして……聞こえてくるシャワーの音。
ホテルの一室は、今まで感じたことの無い、俺にとっては異様な空気を常駐させていた。
――俺は、怖かったんだ。
この場から逃げること――いや、この場から逃げた場合の、その後のことが。
もし、俺がこの場から逃げたら、今、シャワールームを使っている人間――高遠さんが、どういった行動を起こすか。
いろんなことが考えられるが、いくら考えても、優先的に出てくるのは悪い例ばかり。
特に危険を感じたのは、高遠さんが学校で、一緒にホテルに入ったことを言いふらすこと。
……ただ、この可能性はかなり低いとも思った。
なぜなら、高遠さん自身が、ホテルに入る前に援助交際をしていることを秘密にしてほしいといった内容の言葉を口にしているから。
もし学校でホテルに入ったことを言いふらしたりしたら、高遠さん自身の行動がバレる可能性が大幅アップするだろう。
……やはり、そう考えればこの可能性はかなり低い。
でも、何らかの方法で、俺が『誰か』と一緒にホテルに入ったということを学校の生徒たちに広めることは、可能なのではないだろうか。
もし、俺の相手役を『誰か』という形で表現すれば、『誰か』=『高遠さん』と確信する人などまずいないだろうから、その話題性も相俟って、すぐに学校中に広まってしまうだろう。
そうなれば、俺の印象から何から、全てがズタボロになってしまう。
高遠さんが、そんなことをする人だとは思いたくないけど、実際に援助交際をしてたりするんだから、何をされてもおかしくない気もする。
じゃあ、結局俺は、この現状に対してどう対処すてればいいのだろうか――
――と、そんなことを考えていないと、俺は、このベッドの上でじっとしていることなど出来なかった。
俺は今、情けないことに高遠さんの成すがままにされ、すでにシャワーを浴びてバスローブを身に纏った状態。
高遠さんの「一緒に入ろうよ」という言葉に抗ったのは、今の俺が何とかすることの出来た、精一杯の抵抗だった。
身体から立ち上る蒸気が、目の前の光景を幻のように見せる。
だが、それと同時に、火照った身体がクールダウンされていく実感が、まるで『あれ』をするまでのカウントダウンのように思えて、気分はどんどん下がっていく。
『あれ』自体が嫌か嫌じゃないかなんてことが問題なんじゃない。
問題なのは、『そこ』に至るか至らないか、なんだ。
俺だって男だから、もちろん、女性の身体に対する興味はあるし、そういった行為に対する興味もある。
実際に高遠さんが……その、裸の状態になって俺の前に現れたりしたら――
――俺は、『抵抗』をすることが出来るのだろうか。
もちろん、理性では抵抗する気まんまんだ。
……けど、理性が本能に勝てるとは、どうしても思えなかった。
そう考えると、どこかで俺は『それ』を望んでいるんじゃないかと思えて、何だか自分自身が嫌になってくる。
想像でしか『した』ことのない行為を、これからしてしまうかもしれない。
――気分とは正反対に、身体は泣きたいくらいに高揚し始めていた。
どれほどの時間が経過しただろうか。
……実際は、それほど経っていないだろう。
そんなことはわかっている。
わかってはいるけど、どうしても時間が長く感じられてしまう。
――今、俺の体内時計は3倍速状態だ。
って、そんなことはどうでもいい。
今、俺は物凄い緊張感に包まれていた。
また、それと同時に、どこか心の奥底で『好奇心』という名の欲望がふつふつと湧き出しているように思える。
……さっきまで聞こえていたシャワーの音が、ついさっき止んだんだ。
(……俺って、いつから女性に対してこんなに好意的な興味をもつようになったんだろう)
――ふと、思った。
考えてみれば、俺は『女性恐怖症』のおかげで、ずっと女性に近づくことを拒み続けてきた。
家でも、学校でも、屋外でも。
全く興味を持っていなかったわけじゃない――それは、わかってる。
けど、身体が拒否するものが、心にも浸透していっていたのも確か。
自然と、『女性=恐怖の素』という方程式が、俺の中で出来あがっていたんだ。
でも……佐々原高校に通うようになってから、それは変わった。
キッカケは……なんだったんだろう。
十字路で日奈子とぶつかった時か、姉貴が俺を諭してくれた時か、それとも転入歓迎パーティーを開いてくれた時か。
正直、よくわからない。
ただ、少なくとも、それが確定的になったのは、俺のことを好きになってくれている人達がいるという事実を知ったときだろう。
あの時、俺は確かに、彼女たちがどういう風に俺のことを見ているのかが気になったし、俺自身が、彼女たちのことをどう思っているのかが、気になった。
結局、俺が彼女たちのことを『友達としてじゃなく、何か別の意味で好きになっている部分がある』という風に思っていることはわかったが、彼女たちが『俺のどういった部分を好きになってくれているのか』については、全くわからないでいる。
でも、少なくともそういったことについて悩んでいるということは、やっぱり彼女たちのことが気になっている証拠だろう。
「おまたせ、橘クン」
反射的に声の方を向くと、そこにはバスローブを纏った高遠さんの姿が。
立ち上る蒸気が、ボディソープの良い香りを伝えてくる。
きわどい感じに露出しているすらっとした足が、なんとも艶やかで、思わず凝視してしまう。
高遠さんの、いつのまにかゴムでまとめているロングの黒髪が、水気を蓄えてゆらりと煌く。
――――文句無く、綺麗な人。
高遠さんは、視線を動かせないでいる俺に向かって、何やら意味深な笑みを向けてくる。
そして、そのままゆっくりと俺の居るベッドへと向かってきた。
「――緊張しないで、いいから」
そう言いながら、高遠さんはベッド上へと乗り込んでくる。
俺の、すぐ隣に――――。
蒸気のせいか、空気が変わる。
周囲の温度が、急激に上昇しているような錯覚を感じる。
――いや、錯覚ではないのかもしれない。
少なくとも、俺の体感温度が急激に上昇しているのは確かだ。
『緊張しないでいいから?』
……そんなの、無理にきまってるじゃないか。
最早、放心状態に近い状態になっていることなどお構いなしに、高遠さんはあまりにも自然に俺の上体をベッドに押し倒した。
そして、上から覆い被さるような体勢になる。
すぐ目の前にある顔と、ちょっと視線をずらせば見える胸の谷間が、揃って俺を挑発していた。
冷汗が、どっと滲み出てくる。
「ま、待って、まだ、心の準備が――」
かろうじて、迫ってくる高遠さんを抑えながら、かすれた声で言葉を紡ぐ。
当然、その言葉には全く力がこもっていないが、それでも高遠さんの行動を一瞬止めるだけの効果はあった。
ピタッと高遠さんの動きが止まり、俺と高遠さんの間に出来る、境界のニ十センチ。
「――まだ、そんなこと言って。……私って、そんなに魅力、無いかな?」
「そ、そんなことないよ。いや、むしろ魅力ありすぎだし……って、そんな問題じゃなくて、高遠さんがこんなことしてたら、皆、哀しむだろうし――」
瞬間、高遠さんが微妙な表情――どこか自嘲めいた笑みを見せる。
(えっ?)
……思わず、この後に告げる言葉を模索するのを止め、呆然とその表情を見つめてしまった。
また、それと同時に意識が揺らいでくる。
――その表情には、何か魔力のようなものがこめられている。
そう思わずにはいられないほど、その表情は意外性抜群のものだった。
高遠さんが何を思ってこんな表情を見せているのか、それはわからない。
でも、何かしら心境の変化があったのは確かだろう。
だって、今も高遠さんの動きは止まったままなんだから――
――と、思っていたら、急に高遠さんは動き出した。
思わず瞳を閉じるが……俺と高遠さんとの境界は、狭まるのではなく広がっていく。
高遠さんは、俺から身体を離していた。
「――ったく、お前、どうかしてるよ。これだけ迫ってるのに、全然自分から向かってこないなんて。……橘、オンナに興味無いのか? まったく、もう気分が萎えちまったよ」
――普段の高遠さんの口調に戻っていた。
まずそのことに安心してしまい、俺のことをけなしているであろう高遠さんの言葉は全く気にならない。
高遠さんがベッドから降りたのを確認してから、ゆっくりと上体を起こす。
室内の空気が、なんともカラッとした空虚なものに変わっていた。
けして喪失感があるわけではない。
そうではなくて、元からここには、『何も無かった』んだ。
――今、ここにあるのは沈黙だけだった。
ただただ、無言。
とりあえず『危機』から脱したことに安心していた俺だけど、さすがにここまで沈黙が続くと、何だか心配になってくる。
(……俺は、何か高遠さんの気に触るようなこと、言ったんだろうか)
高遠さんは、俺が座っているベッドの端の反対側の端に、背を向けるように座っていて、その表情を確認することは出来ない。
なんだか、振り向いて高遠さんの背中を見るのが怖かった。
――見てしまうと、またこの室内の空気が変わってしまうような気がして。
「……とりあえず、これで借りは無しだからな」
そっと、高遠さんがそんな言葉を漏らした。
「……あぁ」
俺は、背後を振り向くことなく、ただそう言って頷く。
そして……また沈黙。
空虚っていうのは、ものすごく殺伐なもんだ。
「――やっぱり、ここまで来たら、橘クンとやることやんないとね」
ベッドのど真ん中に仰向けで寝転んでいる俺の上に、高遠さんの身体があった。
さっきと違う点――それは、俺が、そして高遠さんが、揃ってバスローブを纏っていないということ。
そして、俺自身がこの状態を拒んでいないということ。
高遠さんが、俺との境界をあっさり破って、俺の身体に自らの身体を密着させる。
俺の身体はいたって正常だった。
高遠さんの息遣いも、ボディソープの良い香りも、そして、俺の身体との間に出来た数ヶ所の接点から感じる、高遠さんの柔らかな感触も、しっかりと俺の感覚は認識している。
更に言えば、俺と高遠さんは、まだ『これから』だというにもかかわらず、すでに身体中、じんわりと汗ばみ始めていた。
その感触が、なんとも艶かしい。
そっと、高遠さんの顔が近づいてきて――
――接点が、もう一つ増える。
普段の俺なら、それだけでいっぱいいっぱいな状態になるはずだが、今、あくまでそれは『前置き』でしかなかった。
高遠さんの顔は、徐々に俺の視線から奥の方に離れていく。
だが、接点が減ったわけではない。
首筋、胸部、腹部へ、ゆっくりと接点が移動していく。
そして、接点は俺の――――
気が付くと、俺はしっかりと掛け布団に包まれた状態になっていた。
徐々に意識が覚醒していく。
バスローブは……しっかりと身を包んでいる。
……どうやら、あれは夢だったようだ。
(にしても、あんな夢を見ちまうなんて、俺も……どうかしてるな)
「……やっと起きたか」
――と、聞こえてきた声に、素早く視線を動かす。
するとそこには、すでに制服姿に着替えている高遠さんの姿が。
高遠さんは、何故だか俺の姿を、舐め回すように見つめている。
しかも、その表情は笑顔。
ふと、悪寒が背筋を猛スピードで駆け巡る。
(何だ? あの不自然な笑顔……も、もしかしてあれは夢じゃなかったのか!? ま、まさか、そんなこと……。でも……確かに有り得ることかもしれない。途中からのことを覚えていないのは、単に俺が気絶しちまっただけかもしれないし……)
そんな憶測が涌き出てきて、俺の顔はあっという間に真っ赤になっていった。
「どうした? 急に真っ赤になったりして……気持ち悪いヤツだな。……だいたい、お前――」
そこまで言ったところで、高遠さんの言葉に、あからさまに笑いが含まれる。
「――橘、寝癖が…すごすぎるんだよ。ハハ、それじゃあまるで、マンガによくあるような、爆発に巻き込まれた後の髪みたいだぞ」
――何だか、ものすごくホッとしている、自分がいた。
高遠さんの言葉、それにその表情、それで、とりあえず確かにあれは夢だったんだと思えた。
それに、高遠さんが『素直に』声を出して笑う姿を見れたのが、何だか稀少価値の高い物を手に入れられたような気分にさせる。
思わず、俺は小さく微笑んでいた。
「……なに笑ってんだよ。ホント、気持ち悪いヤツだな。ほら、とっとと髪直して着替えろよ。いつまでもここに居たって仕方ないだろ? ……それとも、やっぱりやることやってから帰るか? 私はそれでもかまわないぞ」
「い、いや、それは勘弁!」
すでに笑みを殺していた高遠さんの言葉で、俺は慌ててベッドから飛び起き、着替えを始めようとそこらへんに脱ぎ散らかした状態になっている服を手に取る――が、
「あ、あの……とりあえず着替えたいんだけど……」
さすがに高遠さんの前で着替えるのには抵抗があった。
そりゃ……当然だろ?
だが、高遠さんはそんな俺の気持ちなど全く気にする様子も無く、
「あぁ? もしかして恥ずかしがってるのか? 何を今さら。別に私は気にしないから、橘も気にするな」
「気にするなって言われても……」
それは、当然無理なことであるわけで。
渋っている俺を見ると、高遠さんは呆れた様子を見せながら、
「あ〜もう、わかったよ。シャワー室の方に行ってるから、とっとと着替えちゃってくれよ」
そう言ってシャワー室の方へと向かって行った。
高遠さんがシャワー室へ入っていくのを確認してから、俺はそそくさと着替えを始める。
何だかその行為が、俺をより『現実』へと引き戻してくれているように思えた。
ふと窓の外を見れば、太陽がしっかりと昇りつづけている。
結局あの後、俺と高遠さんは何事もなかったかのようにホテルを出て、何事もなかったように一緒に駅に入り、そして、何事もなかったかのようにそれぞれの最寄の駅へと帰っていった。
特に、会話らしい会話をすることもなかった。
……せいぜい、俺が、タバコを吸い出した高遠さんに対して「制服姿でタバコはまずいだろ」と言ったのに、高遠さんが「別に、誰も何も言いやしないさ」と返してきたことくらい。
そう、俺と高遠さんとの間には、『何事もなかった』んだ。
そう思っていないと、何だか自分自身がどんどん『どつぼ』にはまってしまいそうな気がしてならなかった。
ただ、俺と高遠さんは偶然夜の街で会って、気が付いたら終電の時間が過ぎてしまっていて、しかたなく二人でホテルに泊まった。
……ただ、それだけだ。
――ただ一つだけ、二人の間に生まれたものがある。
それは、援助交際のことを内緒にしておいてほしいという高遠さんと、その高遠さんと一緒に、無理矢理ではあるけどホテルに入ってしまった俺がそれぞれ抱えたものを、ギュッと凝縮したもの。
――――俺と高遠さんの間に、共通の『秘密』が出来あがったんだ。
朝帰りをした俺に対して、絶対に姉貴は何かからかうような言葉をかけてくる。
――と、俺は予想していた。
だが俺が帰ってきた時、運良く我が家に姉貴の姿はなかった。
まぁ親父が軽く「ダメですよ翔羽君、何の連絡も無しに朝帰りだなんて」なんて言葉をかけてきたけど、その口調はいつも通りの優しいものだから、俺も安心してその言葉を受けとめることが出来る。
とにかく、姉貴が居ないのは、ホントにラッキーだった。
おかげで、俺は朝飯を作らされることなく済んだし(珍しく、親父が朝飯を作ったらしい)、人の部屋に突然姉貴が乱入してくる危険性も無い。
まさに、平和な一日を過ごせそうな感じだ。
早速俺は、自分の部屋でノートパソコンを開き、軽くネットサーフィンを始める。
自分のホームページをチェックするのはもちろん、普段から交流のあるオンライン上での友達のホームページなんかもチェック。
そして、メールのチェックなんかをしているうちに、いつのまにか時刻は正午を過ぎていた。
お昼に俺がやるべきことは――
――速攻で俺と親父の分の昼飯を作り、そしてそれを食い終えた後に、速攻で食器洗いをする。
(まぁ、いつまで経っても、家事系は俺の仕事なんだろうな)
……もう、その件に関して、俺は完全に諦めに入っている。
まぁそうは言っても、今日は姉貴が居ないだけ、労働量はかなり少なく済んだ。
俺はとりあえずあらかたの『仕事』を終えると、すかさずリビングルームにあるソファに寝転ぶ。
そして、ソファに乗っかっているクッションの上に頭を乗せる。
――休日の昼寝。これがまた、たまらなく心地の良いものなんだ。
とはいってもすぐに眠れるわけでもないから、リモコンでテレビの電源を入れて、適当にチャンネルを切り替える。
変わり映えの無い番組たちを眺めていると、次第に眠気が俺の身体を充満し始め……気が付いたときには空は茜色に染まっていた。
寝るまでの工程はものすごく気持ち良いものだったけど、やっぱり起きてすぐは気だるい。
軽く伸びをしてから、玄関へと移動し、そこに有る靴を確認する。
――どうやら、まだ姉貴は帰ってきていないようだ。
まだまだ意識は朦朧としていて、覚醒までは程遠い。
俺は、この朦朧とした意識を覚醒へと誘うために、ゆっくりと靴を履いて玄関から外へと向かう。
外の空気は、熱を持った身体に適度な刺激を与える。
十一月始めの空気は涼しいというよりは少し寒いけど、その分身体を覚醒させるのにはもってこい。
海沿い通りの歩道まで出ると、すっかり俺の身体は平常時のそれになっていた。
夕暮れ時の海は、常にその表情を変えていく。
今は秋という季節に実りを見せる柿のような色で、その素肌を彩っている。
(……うん、とりあえずこれを見れただけでも、外に出てきて正解だったな)
そう思いながらも、さすがにずっと外に出ていると身体が冷えてしまうと実感し、そそくさと家に戻ろうと、目の前の海からきびすを返す――
――その時、俺の目に一瞬、見覚えのある人物の姿が映った。
完全に家に向けられていた視線を修正すると、そこに見えたのは姉貴だった。
なんだ、誰かと思ったら姉貴――――
――だけではなかった。
姉貴の隣には、軽くうつむきながらこっちに向かってくる人物が一人。
その表情は確認できないが、何だか足取りに元気が無いように見える。
姉貴は、何だかとても不機嫌そうな表情を見せていた。
また、何故か姉貴の手には――というより腕には、両手で抱えないと持てないほどの大きさなダンボールの箱が。
俺には、今目に映っているこの構図を、全く理解することが出来なかった。
――姉貴の隣に居るのは、どっからどう見ても高遠さんだ。
姉貴と高遠さんという組み合わせ。
その時点で意味不明。
姉貴と高遠さんの接点なんて、ほとんど無いはず――せいぜい、転入歓迎パーティーの時に顔を合わせたくらい――なのに、いったいなんでその二人が一緒に……。
それに、何で姉貴はあんなに不機嫌そうで、何で高遠さんはあんなに元気がなさそうなんだろうか?
ホント、全く理由なんて思いつかな――
――あっ、もしかして……昨日…じゃなくて今日のホテルのことが姉貴にバレたとか!?
まさか、そんな……でも、もしそうならば二人が一緒にいることも、二人がそれぞれああいう姿を見せていることもつじつまが合う。
姉貴は俺と高遠さんに対する怒りで不機嫌そうな顔をし、高遠さんは援交のことがバレたのがショックで元気が無い。
……と、こんな風に。
って、冷静に考えてる場合じゃないじゃないか!
このままじゃ、姉貴に何を言われ、何をされるかわかったもんじゃない。
マズい、マズいぞ!!
――なんて思っているうちに、いつのまにか姉貴と高遠さんは、俺のすぐ目の前まで移動してきていた。
そして、変わらずの不機嫌顔を見せる姉貴が、容赦無く俺に言葉を送り込んでくる。
「翔羽っ!!」
「な、何っ!?」
慌てて変な声で応戦するが、姉貴はその表情を全く崩さない。
また、高遠さんもうつむいたまま、俺の顔を見ようともしない。
(マズい! 絶対にマズい!!)
もう、俺の頭の中では危険信号が無限増殖し始めていた。
身体が、本能が、思いっきり拒否反応を示していた――
――――ガサッ
ふと、聴覚が近くから音を察知。
発信源は……姉貴が抱えているダンボール箱の中。
自然と視覚がダンボール箱を捉える。
ダンボール箱は……奇妙な揺れを見せていた。
ガサッと音が鳴るたびに、ダンボール箱が揺れる。
……つまり、ダンボール箱の中に『何か』がいるということだろう。
って、何だかメチャクチャ怪しいんだけど、このダンボール箱。
「――――はい!」
それは、姉貴が俺に向けて放った言葉だった。
言葉だけならば、まぁいい。
……けど、向けられたのは言葉だけではなかった。
姉貴は、俺に向かって、自らが抱えているダンボール箱を差し出していたんだ。
手を伸ばせば……いや、伸ばさなくても十分に届く位置に、奇妙なダンボール箱。
目の前で、またダンボール箱が動く。
(な、なんなんだよコレ!?)
……思わず一歩引いてしまう。
しかし、姉貴に容赦なんてものは存在していないようで、すかさず一歩、こっちに向かって進んでくる。
「な、何なの? ……この、ダンボール箱?」
恐る恐る、相変わらず不機嫌そうな表情のままな姉貴に聞いてみるが、それに対しての返答は無し。
……『いいからとっとと受け取れ』って、ことだろうか。
――俺に、拒否権なんてものは、存在していないようだ。
俺は渋々、この奇妙なダンボール箱を受け取った。
受け取った瞬間から、ダンボール箱から奇妙な振動が、絶えず腕に伝わってくる。
――――と、突然、この奇妙なダンボール箱の中から、何かが勢い良く飛び出してきた。
「う、うわぁっ!!」
――俺の視界は、その飛び出してきた物体によって、見事に塞がれたのだった。
===あとがき=====
バスローブ、何色が好み?
第27話でございます。
予想通り、ちょっと前話の公開から間が空いてしまいましたが、何とか公開までこぎつけました。
『高遠明日香』編の第2話ですね。
とりあえず、ホテルの部は無事? 終了しました。
……もしかしたら期待通りの展開には、なっていなかったかもしれませんね(汗)
まぁ、あまりリアルな表現は出来ませんので、あしからず(笑)
とにかく、早速新たな展開に発展していきます。
『謎のダンボール箱』
いったい、あれの正体……というより、あれの中身の正体は何なんでしょうね。
次話では、その正体がわかります。
それと、何で舞羽さんが不機嫌な表情を見せていて、何で高遠さんが元気がなさそうなのか、その原因もわかるようになる予定です。
あ、そうそう、前話のメールフォームからの感想で、『大丈夫、不快感なんて感じませんでしたよ♪』とか、『作者さんがこういう構成がいいと思ったなら私はもう批判はしません』といったメールを下さり、本当にありがとうございます。
また、逆に『もう少し控えめにしていただきたかったです』といったメールもいただきました。
中学生の方も沢山読んでくださっているみたいなので、ごもっともですね。
……でも、出来れば本話だけは我慢していただきたいと思っています。
って、もう公開しちゃってるんですけどね(汗)
やっぱり、本話の内容が前話からの引継ぎになっているので、どうしてもそういった表現が出てきてしまうんです。
一応、これでも少し抑えてみたつもりです。
とりあえず、次話からは少し落ち着くと思います。
えと、まぁ色々と問題はありますけれど、どうかめげずに『らぶぱ』を楽しみにしてくださると嬉しいです♪
それでは、いつ公開になるか未定な第28話をお楽しみに!
2004/09/19 21:38
何だか最近、頭がパンパン! な状態にて。