第17話〜feat. YUKI KIJIMA #3 [翔羽と生まれた争い]〜 |
上履きって、すっごく靴底が薄い気がする。
グラウンドの上なら大丈夫そうだけど、グラウンドに入る前の砂利道だと、小石の感覚がもろに足に伝わってきてものすごく走りにくい。
そんなわけで、俺は足の裏に痛みを感じていたが、走るのを止めることはなかった。
――止めるわけにはいかない。
はっきりと確認することが出来る。俺の視線の先――そこに居るのは、間違いなく由紀だ。
由紀の目は、涙で少し腫れていた。
いつもの鋭い視線に、力が無い。
その表情も、やけにやつれて見える。
「………何だよ。……引っ叩きにでも来たのか」
グラウンドの奥にある部活動用のベンチに座っている由紀は、俺の姿を確認すると、驚いた様子も見せずにそう呟いた。
……何だか憔悴しきっているように見える。
「ハァ…ハァ……。そんなんじゃ…ね〜よ」
俺は、全力で走ってきたから、かなり息が上がっていた。
両手をひざに乗せて前かがみになりながら、何とか由紀に言葉を返す。
「じゃあ……何だよ」
「ハァ…ハァ……ふぅ。……全く、ホントに可愛げの無いやつだな〜」
俺は呼吸を整えると、ぶっきらぼうに話す由紀に向かってそう言う。
由紀は表情をきつくして、俺を睨みつける。
「悪かったな! どうせ可愛げなんてもの、持ち合わせてねぇよ!!」
「ホントにな。……でも――」
俺は、表情を和らげてから、今思っている気持ちを素直に言葉にして伝えた。
――嘘偽りの無い、純粋な俺の気持ちを。
「――でも、それが由紀だろ?」
由紀は、予想外の言葉だったのか、ただ目を見開いて俺を見据えていた。
俺は、ベンチに座っている由紀と同じ高さになるように、軽く屈みながら、更に言葉を続ける。
「……その、何ていうか……上手くは言えねぇけどさ。お前は……お前らしくいるのが一番良いと思う。男っぽくたって、男勝りの力を持ってたって、別にい〜じゃんか。それも含めて由紀なんだし……さ」
……何だか、自分でも理解に苦しむ内容になってしまっているような気がする。
とりあえず、地雷だけは踏まないようにしているつもりだけど、それすらも怪しく感じる。
でも、これが今の俺の精一杯であることは確かだ。
自分の素直な気持ちを込めた……俺の精一杯の言葉。
だが、俺の目に映ったのは――。
――綺麗に流れる、一筋の涙だった。
由紀は、まっすぐ俺を見据えながら……泣いていた。
表情は全く変わらず、ただ流れる涙だけが、由紀の心情の変化を示している。
「お、おい、ホントに悪かったから! だからもう勘弁してくれよ! ……もう、お前のそんな姿、見たくねぇよ。頼むから……いつもの明るくて、冗談を言い合えて、うるさいお前に戻ってくれよ!!」
自分でも良くわからないまま、俺はひざを折り曲げて手を地面につけ、顔をうつむかせた状態でそんな言葉を叫んでいた。
……何だか、苦しかった。
もう、今の状態に耐えられそうにない。
俺の中ではもう、『調子が狂う』どころの騒ぎではなくなっていた。
――もう、後悔の気持ちで押しつぶされちまいそうだよ。
頼むから。ホントに……お願いだから……。
「……一言……余計なんだよ…………バカ」
――頭に衝撃があった。
衝撃といっても、何かがポンと乗っけられたような、軽いもの。
ゆっくりと、頭を上げる。
――頭上にあったのは……由紀のわりと華奢な拳だった。
由紀は涙を流したまま、ひざを地面につけた状態で俺を見据えていた。
その表情が、柔らかなものになっている。
「由紀……それって……」
俺がそう言葉を返すと、由紀はゆっくりと語りだした。
「ゴメンね……キツいことばかり…言っちゃって。私、多分怖かったんだと……思う。別に……誰に何て言われようが、気にしないようにしてたはずなのに……。何だか、自分を否定されてるような気がして……。そう思ったら……もうダメだった。……ハハ、ダメだな、私って」
由紀は、自嘲を含んだような表情を見せる。
……辛い気持ちが、もろに伝わってきた。
そして、その気持ちを生ませてしまったのは、間違いなく俺だ。
「……謝らなきゃいけないのは俺の方だって。お前の気持ちなんて全然知らなかったのに……あんなこと言っちまって」
「橘……。でも、橘は私の気持ちを……わかってくれた。……そして、私が私でいることを認めてくれた」
「じゃあ――」
由紀の反応に多少の安堵を覚えた俺は、完全なる安堵を求めて言葉を切り出そうとするが、その言葉が完成することは無かった。
無理して作った感のある笑顔を見せながら、由紀が言葉を放つ。
「……で、でも……後で…後悔しても知らないぞ〜。きっと、私は橘に冗談ばかり言ったり、殴ったりするかもしれないよ」
「ハ、ハハ……殴られるのは嫌だけど……少なくともさっきまでの由紀よりは、その方がずっといいよ。……そうだ。あと、俺にお前の気持ちを教えてくれたのは、藤谷さんだよ。藤谷さんがいなかったら、きっと俺はお前に謝ることなんて出来なかったと思う」
「ヒナが……。そっか……」
優しい表情を見せながらも、由紀の涙はまだ止まらない。
「色々と、教えてくれたんだ。……小学校の頃のこととか。……それに、藤谷さんは俺に言ったんだよ。『私は、そんな男っぽい由紀が好きだよ』って。……それで、俺は気付けたんだ。きっと、お前は『男っぽい』ことにコンプレックスを持っているんじゃなくて、そんなところも受け止めてほしいと思ってるんじゃないか……ってな」
ホント、日奈子の言葉がなければ、俺はまだ苛立ち続けていたと思う。
こうやって由紀と会うことなんて、それこそ無かっただろう。
あの言葉は……俺を……そして由紀を救ってくれた。
「ハハ、ヒナらしいな〜。……いっつも私のこと心配してくれて。……でも、橘が思ったこと……半分はずれてるよ」
「えっ?」
「私……やっぱり自分の『男っぽさ』にコンプレックス持ってるよ。……ヒナみたいな、華奢で、ひかえめで、優しくて、ちょっとしたことがあるとすぐに顔を赤くしちゃうような、そんな女の子に憧れを感じているんだと思う。……案外、ヒナに嫉妬してたりするかもしれないな」
「藤谷さんに嫉妬……ね。……でも、それはさすがに無理だろ〜。…………あっ! ち、違う! その――」
……ヤバい。
ここまで来て、ドジっちまった。
つい出てきてしまった言葉を、慌てて言い直そうとしたけど、由紀の表情は柔らかなままだった。
「ハハ、大丈夫だって。……今は叫ぶ気力なんて無いから。でも……」
「ん?」
由紀は、ようやく止まった涙を手で拭ってから、言葉を続ける。
「……やっぱり許してやんない」
「はぁ!?」
「さんざん私に悲しい思いをさせといて……。そんな簡単に許すわけにはいかないよ」
「うっ……。そう……だよな」
そりゃあそうだ。
日奈子から色々と説明してもらった今だからわかる。
俺が言ってしまった言葉は、間違いなく由紀の心を傷つけた。
心の傷は、そう簡単に癒えるものではないと思う。
やっぱり……許してもらえなくて当然なのかもしれない。
だが、思いっきり落ち込む俺とは対照的に、由紀は微笑んでいた。
「でも……そうだなぁ……今度の体育祭のリレーで、トップで私にバトンを渡してくれたら許してやるよ」
「えっ? リ、リレー?」
「そ。……あっ、でもそれじゃあ四番手までの状況で変わっちゃうか。う〜ん……じゃあ、橘がバトンを受け取ったときに一位だったら、そのまま一位で私にバトントスする。二位以下だったら、一人以上の人を抜かして私にバトントスする。……うん、それでいこう!」
な、なんだか話が変わってる気が……。
……でも、まぁ目の前の由紀は、見るからに元気になっていたから、ホントに良かった。
何か、ホッとすると急に力が抜けてくる。
でも……まだ許してもらっては……いないんだよな。
俺は頭上に未だある由紀の手を持ちながらゆっくりと立ち上がり、制服についた土を払ってから、由紀を見下ろして決意を告げた。
「……わかった。リレー、頑張るから。……だから、上手くいったらホントに許してほしい。……そうじゃないと、ずっと後悔したままになっちまいそうだからな。それに――」
握手するように、由紀の手を軽く握り直してから、俺の『本音』を告げる。
「それに、今度はちゃんと、由紀のこの手にバトンをちゃんと渡したいからなっ」
「橘……。そ、そうだな! ……本番でも昨日みたいなことになったら、もう絶対に許してやんないからな!」
「だ、大丈夫だって。……だから、ちゃんとバトン、受け取ってくれよな!」
「オッケー!」
……由紀はもう、普段の笑顔を見せてくれていた。
まだ許してもらってはいないけど、それでも心からホッとした。
きっと、今目の前にいるのは普段の由紀だろう。
あとは、俺と由紀との関係が、普段のものに戻ればいいだけだ。
――だから、絶対にリレーで結果を出さないと!
決意を固めると、何だかスカッとした気分になる。
軽くスラックスに付いた土をはたきながら、立ち上がった由紀と共に校舎を目指す。
俺は軽快に走りだ――そうとしたが、由紀の言葉で足は止まる。
「……なぁ、橘」
「ん?」
「その……アリガト……な。私のこと、心配してくれて。……それに…わかってくれて。すごく……嬉しかったよ」
目の前の由紀は、顔をうつむかすという、普段はめったに見ない体勢をとっていた。
そして、その体勢のまま、上目遣いでそんな言葉を言ってくる。
……俺は、驚きとも焦りとも取れるような感情を抱いていた。
由紀の言葉の意図がわからないから……ってのも、その理由の一つだと思う。
でも……それよりも大きな理由があることに、俺は気付いていた。
――由紀って案外、可愛いのかも……。
そんな感情が、俺の中で芽生えていた。
……ただ、別に恋愛感情的な意味ではない…と思う。
っつ〜か、恋愛感情的な意味というものがどういうものなのか、俺は理解できていないし。
でも何というか、そういった一面も持っているんだということに、驚きがあったんだ。
「な、何だよその顔は! ……ほ、ほら、とっとと帰ろう!」
微妙な表情をしたまま、何にも言葉を返せずにいる俺に、由紀は慌ててそう言う。
いったい由紀は、俺の表情から何を読み取ったんだろうか……。
俺は思考もそこそこに、走り出した由紀の後を追って走りだす。
……やっぱり上履きは、とことん走りにくい。
――――正門前。
帰り支度を済ませた俺と由紀は、日奈子が待っている正門前まで全速力で走りきった。
元気な由紀の姿を見た日奈子は、安堵の表情を見せながら近づいてくる。
「良かった〜。……もう、大丈夫みたいだね」
「おぅ! ……悪かったな、ヒナ。心配かけちゃって」
「ん〜ん。それはお互いさまだし」
「そうだね。……あのさぁ、ヒナ」
由紀は突然、柔らかな表情になって日奈子にそう言いながら、俺を一瞥する。
俺はその意図を理解できずにいたが、由紀はお構いなしに日奈子に言葉を続ける。
「……もしかしたら私、ヒナに嫌な思いをさせちゃうかもしれない」
「えっ? ……どういうこと?」
日奈子も、由紀の言葉の意味がわからないでいる様子。
首をかしげながら、疑問符を浮かべて由紀を見ている。
もちろん、俺もサッパリわからない。
由紀にとって、日奈子は親友なはずだ。
そんな日奈子に、自ら『嫌な思いをさせちゃうかもしれない』なんてことを宣言するなんて、いったいどういうことなんだ?
っていうか、由紀は何をして日奈子に嫌な思いをさせるつもりなんだ?
由紀は自分の言葉の意味を理解していない様子の日奈子を確認すると、少し顔をニヤつかせて言った。
「……ヒナの……ライバルになるかもしれないってこと!」
由紀は、そう言うのと同時に俺の腕を掴んで引っ張ってくる。
「お、おぃ! 何だよいきなり!?」
俺には由紀の行動の意味が、全くわからなかった。
日奈子のライバルって……何を対象にそんなこと……。
……でも、日奈子は何かに気付いたのか、何故か顔を赤らめながらも、何か決意のこもっているような表情を由紀に向けていた。
「由紀……やっぱり気付いてたんだ、私の気持ち……。で、でも……私だって……負けないもん!」
日奈子はそう言って、俺の空いている腕を掴む。
……ホントに、何が何だかサッパリわからない。
いったい二人は、何を争おうとしてるんだ?
(っつ〜か、そんなに俺に密着しないでほしいんだけど……)
困惑しながら思案している俺をよそに、由紀はいきなり正門の外へと走り出す。
そして、俺はそのまま由紀に引っ張られる形に。
「よしっ! このままリレーの練習だっ!!」
「お、おい! ちょっと待てっ!!」
慌てて叫ぶが、俺の言葉は何の意味も成さない。
日奈子に掴まれていた腕がいきなり解放され、体勢が崩れて転びそうになるが、何とかこらえる。
「ちょ、ちょっと由紀、待ってよ〜!」
日奈子は慌てて追いかけてくる。
……けど、このペースだと追いつきそうにはない。
由紀は何だか、ものすごく楽しそうだった。
何かふっきれたような……そんな感じがうかがえる。
まぁ、それは良いことなんだと思うけど……。
「おぃ! ど〜でもい〜けど俺はチャリ通学だっつ〜の!!」
そして、十月十三日――体育祭。
グラウンドの周囲には、学生たちだけではなく父兄の姿も多く見られる。
我が子の姿を写真やビデオに収めようと、必死そうだ。
ただ、学生の姿を収めようとしているのは父兄の人たちだけではないみたいで……。
興奮気味な私服の男たちが、我先にとファインダー越しにグラウンド内を見やっていた。
……誠人の情報によると、ターゲットはチアリーディングの姿をした応援団員らしい。
体操着姿の女子は、別に佐々原高校じゃなくても撮れるからっていう理由があるらしいが……って、そんなことはどうだっていい。
とにかく、体育祭はかなりの盛り上がりを見せていた。
『フレー、フレー、あ〜か〜ぐ〜みっ! フレッ、フレッ、赤組、フレッ、フレッ、赤組っ!!』
『V・I・C・T・O・R・Y! 白組ファイトっ、オー!!』
『今日の〜一番知ってるかい? 今日の〜一番青組だ〜! 絶対勝つのはどこの組? 絶対勝つのは青組だ〜!!』
『緑組〜は〜負けないぞ〜! 優勝勝ち取れ緑組〜!!』
――ちょうど今は、各組の応援団による応援合戦が行われている。
体育祭全体でみると、午前の部が全て終わって、ちょうど昼食休憩を取った後。
黄色と白をベースに、青のラインが入ったチアリーディングの衣装を身にまとった応援団員たちが、揃って声をあげる。
手に持っている蛍光色のポンポンを振りながら踊り、途中で足をあげたりすると、周囲からは複数のシャッター音が。
………何か趣旨が違ってる気が。
まぁ、当の応援団員たちは、そのことを気にしている様子は無く、純粋に応援をしてくれていた。
うちのクラスでは、エイミーと春日井さんが応援団員。
エイミーは純粋に応援団に入りたくて、自ら応援団に立候補してたんだけど、春日井さんは……何だか運動が苦手みたいで、応援団が一番まともに出来るものだと思って入ったらしい。
もちろん、二人はうちのクラスの組、赤組の応援団員だ。
応援合戦が終わると、グラウンドの中央に特設のステージが設置され、見知った三人の姿が現れる。
――そこにいるのは森野さん。そして、俊哉さんと奈央さん。……つまり、bonheur。
どういった経緯があったのかはわからないけど、bonheurが体育祭の場で、全学生に向けての応援歌を演奏することになっているんだ。
駅前のライブハウス『R'x』でのライブがあってから、森野さんがbonheurのボーカルであるという事実は、学校中に広まっていた。
……もう、知らない人のほうが少ないくらいだ。
きっと、bonheurというインディーズバンドの人気と、森野さんが佐々原高校の学生であるということが相まって、こういったイベントが実現したんだろう。
事前に森野さんから聞いたところによると、今回のために、オリジナルの応援歌を創ってきてくれたらしい。
ちなみに俺は、今回は作曲に携わっていない。
bonheurの三人は、ステージ上で横一列に並ぶと、周囲に居る全員に向かって礼をする。
俊哉さんと奈央さんは私服姿で居るから違和感ないけど、森野さんは体育祭の参加者でもあるから、やっぱり体操着姿。
……何だかちょっと、おかしな組み合わせに見える。
「今日はお招きありがとうございます! bonheurです!!」
――そんなことはお構いなしに、ステージ上に設置されたマイクを通して、俊哉さんの声がグラウンド中に響き渡る。
「皆のために、今日は応援歌を演奏したいと思います。……さぁ、体育祭は、まだまだこれからだぞ〜!!」
奈央さんの威勢の良い声が響き渡り、学生たちが一気に盛り上がりを見せる。そして、森野さんがマイクを持つ。
「それじゃあ、これから歌わせてもらいます。……でも、その前に――」
森野さんは遠くから見てもわかるくらいに大きく息を吸ってから、学生全員に向かって叫ぶ。
「――もっと盛り上がっていこ〜! ……まだまだ〜!! もっともっと〜!!」
森野さんのパフォーマンスは手馴れた物だった。
あの、森野さんにとっての初ライブが終わった後、結構な数のライブをこなしているらしいから、その上手さも頷ける。
学生たちのボルテージがある程度高潮してくると、森野さんは手を上げてOKサインを見せながら、俊哉さんと奈央さんを一瞥。
そして、それと同時に、俊哉さんと奈央さんの手は動き出した。
「皆のために歌います。……『みんなのVictory!』」
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bonheur - みんなのVictory!
++++++++++++++++++++
どんなに 光る汗 一人 流していても
つかめないものもある
夢中で 掛けぬけた コース 時は流れ
決戦の日が近づく
チカラ¥Wまれば きっと届くはずさ
一人では登りきれない
高い山の頂上へ
さぁ! 走り出そう 一つ先≠目指して
ほら! 力だせ 心一つにして
今は遠くても 必ず見えてくるから
あきらめないで! Let's try the game!
レースは 自分だけの力 じゃ走れない
後ろを見てみなよ
心から エールおくる みんな がいるんだよ
イキが合えば伝わるね
想い£Nでもそう 持っているからさ
どこまでも進んでいける
気持ち$Mじていれば
よし! 盛り上がろう パワー持てあますな
まだ! あと少し 自分を信じて
一番じゃなくても みんなわかってるから
ベストつくして! Don't give up game!
さぁ! 走り出そう 一つ先≠目指して
ほら! 力だせ 心一つにして
今は遠くても 必ず見えてくるから
あきらめないで! Let's try the game!
さぁ! つかみとろう みんなのVictory!
++++++++++++++++++++
……歌って不思議だなぁ……って思う。
体育祭の様々な競技をこなしていく間に、学生たちには疲れが溜まっていっているはず。
でも、そんな疲れなんかもう吹っ飛んでいるように思えるほど、学生たちは身体全体で感情を表現していた。
いや……これは、bonheurのチカラ≠ネのかもな。
そう思えるくらいに、ステージ上のbonheurが輝いて見えた。
歌が終わると、bonheurの三人は手を繋いで礼をする。
そして、ゆっくりとステージから降り――ようとするんだけど、
『アンコール! アンコール! ――』
学生たちからの声で、その動きは止められた。
三人は顔を見合わせて少し驚いている様子だったけど、すぐに喜びの表情に変わって、学生たちに返事をすることなく演奏を始める。
……それは、俺も知ってる楽曲――『シグナル』だった。
もう、みんな大盛り上がり。
これから、まだいくつかの競技をこなさなきゃいけないのに、大丈夫なのか?
なんてことを思いながらも、周りと同じように盛り上がっている自分がいる。
(俺も、人のことなんて言えねぇか)
――思わず苦笑。
俺は、bonheurのチカラ≠ノよって、徐々に迫ってくる時による緊張がほぐれていっているように思えた。
午後の部の競技。
それは、俺にとってはものすごく大事なもの。
――そう。あのリレーは、午後の部最後の競技なんだ。
俺は、なんとしてもこのリレーで、ある程度の結果を出さなければならない。
由紀に、完全に許してもらえるようにするために。
正直……あまり、自信はない。
やっぱり、特に走るのが速いわけでもないから。
リレーという競技に参加する学生は、きっと走るのに自身を持っている人ばかりだろう。
……でも、とにかく精一杯頑張るしかない。
それしか、俺には出来ないんだから。
後は、それが結果として現れてくれることを願うしかない。
なんとか……上手くいってくれよ!
――そして、午後の部の競技は始まった。
===あとがき=====
第17話を、お届けします。
新鮮なうちにどうぞ(笑)
『貴島由紀』編、第3話ですね。
もめごともとりあえず一段落して、ようやく体育祭に突入です。
一段落……したのかな?(汗)
結果的に、まだ翔羽は由紀に許してもらっていないわけですし。
まぁ、そこらへんの結末は、次話の由紀編ラストでわかることとなります。
本話で生まれた争い。
それは、内容を読んでいただけたのなら、わかっていただけると思います。
由紀と日奈子の姿、なんだか描いてて楽しかったです。
それにしても翔羽って、本当にとことん鈍感ですよね(笑)
普通、ある程度想像できると思うんですけど……。
まぁ、そこらへんは翔羽の特徴として、認識してくだされば幸いです。
さて、次話は『貴島由紀』編の最終話。
運命のリレー競技の模様をお届けすることになります。
……とは言っても、あまりリレーは大きく載せてないかも(汗)
ま、まぁ、とりあえず由紀×翔羽×日奈子という構図が、少しずつ出来上がってくる感じにはなってます。
そんな感じの第18話を、お楽しみに。
2004/06/08 15:01
私生活が忙しくなって、週一ペースが不可能になりそうな状態にて(泣)