第3章〜努力の妖精”フォーテ”〜(上)


「それではこちらでお待ちください」

鋼製のものだと思われる鎧を着た20代前半くらいの男の人が、僕達を一つの大きな客室に案内してくれた。

客室の広さは7m×12mくらい。

中央に長方形の長い木製のテーブルがあり、周りには同じく木製の背もたれ付きの椅子が両側に五つずつある。

入って正面には、大きく広げた翼をかたどったエンブレムが堂々と壁に存在し、室内の四隅にある観葉植物はさりげなく気品を感じさせる。

「定刻になりましたらお迎えに上がります」

「わかりました」

男の人の言葉に僕はなるべく失礼の無いように答えようとした。

だからすごく短い返答になっちゃった。

「それでは失礼いたします」

男の人は僕達一人一人に丁寧にお辞儀をして客室を出ていった。

僕達はこれから30分後にこの客室を出る予定だ。

僕とエリア、リュックの中にいるセレス、そしてラーデさんはたくさんある椅子の中の一つをそれぞれ選んで座って待つことにした。



フィンセルの森から無事クレストとシンクルと一緒に抜け出すことが出来た僕達は突然降り出してきた雷雨の中、ずぶぬれになりながらなんとかエルフィンまで戻ってきた。

エルフィンの入り口で僕達はクレスト、シンクルと別れ、ラダの村のみんながいる家に戻った。

雷雨が降るような厚い雲のせいで気づかなかったけど、もうその時には時刻は朝の6時をすぎていて、家の中にはもう起きていた人もいた。

起きていた人は帰ってきた僕達を見て安堵の表情を見せる。

だいぶ心配をかけてしまったみたいだ。

僕達は床にしかれた布の上に倒れこみ、仮眠をとった。

もう身体中がぼろぼろだった。

僕が目覚めた時にはもう周りでみんなが昼ご飯を食べていた。

昼ご飯がもう支給されてるみたいだ。

ただその中にエリアとラーデさんの姿が見えない。

僕はセレスがいるリュックを背負う。

中から小さな寝息が聞こえる。

妖精もやっぱりちゃんと寝るんだなぁと改めて実感しながら僕は家を出た。

家を出て空を見るとまだ厚い雲が残っていた。

だけどもう雨は降っていない。

天候は回復傾向にあるみたいだ。

食事の支給場所へ行こうとした僕の前に快心の笑顔をしたエリアが現れた。

「セイル起きるのおそ〜い!」

エリアの大きな声、でもいつもと違ってとげとげしさが無い。

「ご、ごめん」

僕は驚きと不安で声が裏返った。

エリアが僕より早く起きているという驚きと、とげとげしさが無い声による不安だ。

「まぁいいわ!それよりセイル!早く準備して!!」

「準備?」

準備っていったい何の準備なんだろう?

「あっ、そうだよね!セイルはまだ知らないんだよね!」

エリアは相変わらず笑顔。

何だかとっても嬉しそうだ。

「知らないっていったい何?」

「聞いて驚かないでよ!なんと!私とセイルとラーデさんがエルフィン城に招待されちゃったのよ!!」

「……」

「あれ?どうしたのセイル?」

「ほ…」

「ん?」

「本当〜〜〜〜〜〜!!!!!」

ボクはあまりのことに思わず絶叫してしまった。

周囲の視線が一気に僕達の方に向けられる。

「ほ、本当よ。で、もうお城に行くから早くちゃんとした格好になって…ってセイル!!」

僕はエリアの話を全部聴き終わる前に家へと戻り出した。

「お城に入れるんだ!」

僕は家に戻ると、今出来る最大限の格好になって、再び家の外へと出た。

黒のインナーに緑のベストのような服。茶色のズボンに、皮製の茶色いブーツを履いている。そして腕には銀細工の施された腕輪。

……フィンセルの森に入ったときとほとんど同じ格好だった。

つまり、起きたときとほとんど同じ格好で、部分部分を整えただけ。

…だってこれしかまともな服ないんだもん。

外ではエリアが待っている。

「…はぁ、やっぱりその格好しかないよね。家にあった服は燃えちゃったし」

エリアの何気ない言葉はラダの村での悲劇が思い出させる。

「まぁ、いいわ!とにかく速く行きましょ!!」

エリアはそう言うと、エルフィン城へと続く通りを走っていった。

「ちょ、ちょっと〜!!」

僕はすごいスピードで進んでいくエリアの背中を急いで追う。

エリアのスピードはものすごい。

いったいどこにそんな力があるんだか…



……で、今にいたっている。

「お待たせしました。ご案内いたします。私について来てください」

予定通りにさっきの男の人が迎えに来て、僕達を先導してくれることになった。

客室から出て廊下に出る。

廊下に出ると左側は行き止まりになっていて、右側の方だけ通路が続いていた。

もちろん右側の通路を進む。

通路には所々にすご〜く重そうな甲冑や、長すぎて逆に振り回されてしまいそうな槍や、大きすぎて視界を遮られてしまいそうな盾や、重すぎて片手では支えきれそうにない剣などが置いてあった。

通路をしばらく進むと左側に階段が現れる。

僕達はその階段を降りて右側の通路を更に進んだ。

するとしばらくして右側にお城の入れ口が見える。

その反対側、そこが謁見室だ。

つまり入り口からまっすぐ進めばそこが謁見室だってことなんだよね。

そして、ついに!ついに僕達は王様がいる謁見室に入ることになったんだ!!

「王子を救出してくださった、ラダ村のご一行をお連れした」

「はっ!どうぞ、お通りください。王がお待ちかねです」

謁見室の扉の前に立っていた衛兵が扉を開けてくれて、僕達は謁見室の中に入った。

そして王様が座っている王座に近づいて、方膝をついて頭を下げた。

「お連れいたしました!!」

「ご苦労、下がってよいぞ」

「はっ!失礼します」

先導してくれた兵士、そして元々中にいたものは皆、謁見室から出ていった。

「みなさん、頭を上げてください」

王様が優しい声で僕達に声をかけてくれた。

頭を上げる。

よく見ると王様の隣にはクレストが立っていた。

「このたびはフィン国の王子を…いや、我が子を救ってくれてありがとう。心から感謝している」

「本当にありがとう!」

王様に続いてクレストがお礼を言ってくれた。

なんか、『クレストって本当に王子様なんだ〜』って、改めて思っちゃった。

「何かお礼をしたいのだが…望みのものはあるか?」

「……では」

突然ラーデさんが話し出した。

「では、一つ聞きたいことがあるのですが」

「何だ?」

「『フェアリーストーン』について、何かご存知でしょうか?」

「『フェアリーストーン』?…あぁ、あの妖精の石像のことか……ん〜、そういえばレナン国にある都市『シャント』の教会に祭られていると聞いたことがある」

「レナン国っていうことは…ここから東の方向ですね」

エリアが思い出したように言う。

「そうだよ…ところで、何故フェアリーストーンなど欲しがるのだ?まぁ、確かに希少価値は高いだろうが…」

「実は…」

王様の問いにラーデさんが答え様とした時、

「このことは私からお話します」

クレストが僕達の方に近づいてきて、同じように方膝をついて頭を上げた。

「何の真似だ?クレスト」

「…まず話を聞いてください、お父様、いや、フィン王!」

「………いいだろう、クレスト=フィン、いいたいことを言ってみろ」

「はい!」

クレストは王様の言葉を聞いて、なんだか嬉しそうだった。

「まず、根本的なところから…今、この世界が危機に陥っています。それは急激な魔物の狂暴化、瘴気の増加、気候の不安定化などからも見て取れることです。その原因は何なのか?それは『世界を脅かすもの』が復活しようとしているからなのです!!」

「『世界を脅かすもの』?特定の名前はないのか?」

「それはわかりません。ただ、その『世界を脅かすもの』は、6精者と6司者によって封印されていたのです」

「6精者?6司者?」

「6司者とは、6精神、勇気、希望、信頼、努力、不屈、思想の各6つの精神を司るもののことを言い、それらの主のことを6精者、勇精者、望精者、信精者、努精者、屈精者、想精者と言います」

「ほぉ」

「…単刀直入に言います。私は6精者の中の想精者なんです!」

「な、なに!?」

「そして…」

クレストはそう言うと腰の辺りに結わえ付けてあった袋を開き、その中に向かって何か喋った。すると、

「…こ、こんにちは、王様。わ、私は思想の司者、思想の妖精『シンクル』と言います」

袋の中から紅赤色のショートカットの持ち主、思想の妖精シンクルが出てきた。

シンクルを見た王様はただただ目を丸くしていた。

「あ、あの…」

しかし、王様はしばらくすると落ち着きを取り戻し、

「…もしかして君はクレストが、洗礼の泉から持ち出してきたフェアリーストーンなのか?」

「は、はい。あ、あの…」

「大丈夫だよ、シンクル。僕が話すから」

話しにくそうに縮こまっていたシンクルを見て、クレストは再び会話を始めた。

「数百年前、今と同じように世界を脅かすものが復活しかけた時、当時の6精者と6司者は力を合わせ、世界を脅かすものを追い詰めた。そして、6司者が世界を脅かすものを囲み、司者のみが使える禁呪を使い、世界を脅かすものを封印した。そしてそのまま永遠に封印し続ける…はずだったのに……」

クレストの表情は話が進んでいくのと共に暗いものとなっていき、しまいには話が途絶えてしまった。

僕は黙ってただクレストの姿を見ていることしかできずにいたんだけど、

「セイル…私が話します」

突然、リュックの中にいるセレスが僕にいつに無く真剣そうな声で話しかけてきた。

僕は背負っていたリュックを下ろし、リュックを開けた。

するとセレスが勢いよくリュックの中から翠緑のロングヘアーを靡かせて飛び出してきた。

「お初にお目にかかります、王様。私は勇精者セイルの司者、勇気の妖精『セレス』です。ここからは私が説明します。……とは言っても、正直言ってあまりわかっていることはありません。ただ、わかっていることは私達6司者が封印し続けるはずだった世界を脅かすものは『なんらかの外的援助』を受けてその力を回復させていったということ。そして、世界を脅かすものがその自らの力で私達の封印から逃れたということ…」

「その『外的援助』の詳細はわからないのか?」

「はい…私達は世界を脅かすものが力を回復させていることにまったく気づきませんでした。なにせ世界を脅かすものの力が回復したのは、ほぼ一瞬の出来事だったんですから」

「一瞬の出来事?」

「はい。その時が訪れるまでは、世界を脅かすものの力は回復するどころか衰弱していっていました。このまま自然にその力を失ってくれればいいと思っていたくらいですから。けれど、突然その時は訪れてしまいました。世界を脅かすものを封印していた場所が急に暗黒に包まれてしまったのです。……私達は自らの意志を取り留めておくので精一杯でした。そして、ようやく暗黒が消え去ったと思った時には、世界を脅かすものが封印から逃れ、その力を私達の前に再び見せ付けたのです………」

「……もうよい。これ以上君たちにそんな顔をさせたくはない。…クレストよ、お前ももう浄心の儀を終えた。もう大人だ。お前はお前が良しと思った道を進むが良い。私はそのための援助なら惜しまない」

「父上……」

「レナン国に行くには通行証が必要だ。通行証は私が入手しておく。ただし、通行証が発行されるまでには早くても10日前後かかってしまう。……それまではエルフィンの地にとどまっていて欲しい」

王様のその言葉を最後に、謁見は終了した。



その後、僕たちはお城から出てエルフィンの城下町を見物しながら村の皆がいる家へと戻った。あっ、もちろんクレストはお城に残ったけどね。

時刻は4時。

何だか中途半端な時間だ。

やることがなくて暇だったりするし。

…………………

……やっぱり暇だ。

僕がこんな感じで暇を持て余していると、セレスが何かを感じ取ったかのようにリュックの中から声をかけてきた。

「セイル、シンクルの意識が感じられます。近くに来ているんじゃないですか?」

「シンクルが?」

…ということはクレストも一緒?

そう思いながら僕は周囲を見回した。

………もちろん家の中にいるはずがない。

ただ、エリアが僕に気づいて話しかけてきた。

っていうか今は僕とエリアしか家の中にはいないんだけどね。

「どうしたの?」

「なんかセレスがシンクルの意識を感じるんだって。っていうことはクレストも一緒にいるのかなぁとか思っちゃって」

「確かに……って!!それってすごくマズいんじゃないの!?」

「えっ?なんで?」

「なんでって!クレストは王子様なんだよ!王子様が城下町を歩いてたりなんかしたら大騒ぎになっちゃうじゃない!!」

「あっ、そうか」

「『あっ、そうか』って……ねぇセレス、シンクルの意識が感じられるって確実なことなの?」

エリアは改めてセレスに聞いてみた。

「間違いないです。二人が話しているうちにだんだんこちらに近づいてきてますよ」

セレスがそう言ったと同時に、家の中に誰かが入ってきた。

「クレスト!?………じゃないか」

入ってきたのは僕の知らない綺麗な女の人だった。

髪は赤茶のロングヘアーで、黄色い花柄のキャミソールブラウスと純白でレースが施してあるスカートを着ている。更に左手首にはシルバーのブレスレットを、右手にはベージュのトートバックを、そしてなぜかその姿に似合わないブロードソードを携帯していた。

まるで『常識知らずのどこかの清楚なお嬢様が剣を持って旅立ちに行く』みたいな格好だ。

「あの……どなたですか?」

エリアがそうたずねるとその人は家の周りを確認した後、持っていたトートバックを開けた。

「シンクル!?」

そしたら中からシンクルが出てきたんだ!!……ん?ちょっと待って、じゃあこの人は………

悩んでいる僕たちを見て女の人は、

「まさか私を忘れたんじゃないでしょうねぇ」

なんて笑いながら話してきた。

「……まさかクレスト!?…そんなわけないよな、格好も声質もまったく別人だし」

「そのまさかなんだな♪……『セイル君、僕のことは王子だなんて言わなくていいよ』」

女の人の声質が急に変わった。……クレストの声だった。

「ホントにクレストなの!?」

エリアが心底驚いている。

「ホントだって。ねぇシンクル」

「は、はい。王子様は皆さんが帰った後、旅立ちの決意を王様に話されました。そして、王子の姿のままでは何かと不都合が多いと判断した王子様が変装をしたんです」

「シンクル、これは変装じゃないよ。むしろ変装を解いたんだよ。女としての私に戻ったのよ」

「……………」

「あれっ?どうしたのセイル」

クレストがボーっとしている僕を見て聞いてきた。

「旅立ちってことは…クレスト一緒に来てくれるの〜!?」

僕はすっごく嬉しかった!

だって、また仲間が増えたんだもん!

こんな嬉しいことはないよね♪

「でもクレストがこんなに綺麗だとは思わなかったわ」

「アリガト♪でもエリアほどじゃないわよ」

「またまた〜、うまいんだから♪」

……………嬉しかったけどこれから僕の居場所がなくなりそうな気がするな。

こうしてクレストが正式に僕たちの仲間になった。



それから3日後のこと……

時刻は深夜2時。

僕を含めて家の中にいる人は皆寝ていた…んだと思う。

あっ、その中にはクレストもいるんだよ。

何でも『今のうちに旅の生活感に慣れておきたい』らしいよ。

でもクレスト、ラダ村の男の人達にモテモテで結構困ってるみたい。

…まぁ、そんなことはどうでもいいんだけどね。

僕たちが寝静まっている時に、突然そいつらは現れたらしいんだ。

耳に障るような足音はまったく聞こえない。

そいつらは僕のほうへ一直線に進んできた。

僕はまったく気づかなかった。

そいつらの手には鋭いナイフが光っていた。

ゆっくりと振り上げ、そして勢いよく振り下ろす!!

キン!!

金属と金属がぶつかり合う音が聞こえた。

でも、それほど大きな音ではない。

気づいたのは僕の周辺にいた人だけだった。

僕とクレストだ。

エリアは……起きるはずないか。

そいつらが振り下ろしたナイフは一振りの細身の剣によって進路をさえぎられていた。

……ラーデさんの剣だ。

僕の右横で寝ていたラーデさんは、こいつらの存在にいち早く気が付いて僕を守ってくれたんだ。

そいつらはアサッシンだった。

アサッシンは三人組。

表情などは黒い装束に阻まれてみることが出来ないけど、皆一様に小柄だった。

僕はいきなりの出来事に、ただアサッシンたちを見ていることしか出来なかった。けど、左横で寝ていたクレストは違った。素早くブロードソードを掴むと、純白のレース付きスカートをなびかせながら素早く跳躍。アサッシンの背後に回りこみブロードソードを一閃した。

しかしアサッシンもプロらしく、素早く振り返り、小手をかざしてクレストの攻撃を受け止めた。

間合いを取る。……緊迫が走る。

アサッシンたちも攻撃されっぱなしで黙ってはいない。

標的を僕から、クレストに変えていた。

アサッシンの内の一人がどこからともなく小型のナイフを取り出し、クレストに向かって投げた。ナイフは一直線にクレストの顔をめがけて飛んでいく。クレストはそれを剣で払った。

……しかし、そのナイフは囮だった。

ナイフが投げられたのとほぼ同時に、あと二人のアサッシンの内の一人がクレストに向かって突進していた。

「なっ!!」

反応が遅れるクレストに向かって鋭い刃が襲い掛かる!!

スパッ!!

下から上へと凪がれたナイフはクレストのレース付きスカートに深いスリットを入れていた。

間一髪!クレストはギリギリのところでアサッシンの攻撃を避けた。

「私のスカートにこんなに深いスリットを入れてくれるなんて、結構いい度胸してるじゃない!!」

クレストはそう言うと出来たばかりのスリットから見える細くすらっとした右足で、そのアサッシンに蹴りを仕掛けた。

体術を使ってくるとは予想していなかったのか、そのアサッシンはもろにクレストの蹴りを腹部に受けていた。

それでも呻き声一つもらさないところはさすがって感じ。

攻撃を受けたアサッシンを見て、残りの二人のアサッシンは少し動揺したようだ。

その動揺した瞬間をラーデさんは見逃さなかった。

細身の剣が素早く数回突かれる!

これにはさすがのアサッシンも危険を感じたのか、完全に防御体制に入り、ラーデさんの突き攻撃が収まったと同時に、進入経路として使ったと思われる窓から外へと逃げ出していった。

それを見届けたラーデさんは落ち着いた感じだったけど、クレストは辛そうに肩で息をしていた。

二人ともスゴイと思った。

僕はまったく身動きを取ることが出来なかったから……

カンカンカンカンカンカン!!

鐘の音が鳴り響いたのはそれからすぐのことだった。



「鐘の音!!外で何かあったのか!?」

最初にそう叫んだのはラーデさんだった。

けたたましく響く鐘の音で、家の中の人たちはいっせいに目を覚まし始めた。

「なんだ!?」「なにかあったのか!?」

皆いっせいに叫びだす。

………そんな中でもエリアは一向に起きる気配がない。

ある意味さっきのラーデさんとクレストよりすごいんじゃないかと思っちゃったりする。

でも、さすがにもう起きてもらわないとまずいような気がするから、僕はエリアが寝ているところまで行って叫んだ。

「エリア!起きて!!なんかまずそうな雰囲気なんだ!!エリア!!」

「……………」

「エリアったら!!早く起きてよ!!」

「……ん?……なぁにぃ?」

「『なぁにぃ』じゃなくて!早く起きて!!」

「ふぁ、ふぁ〜っ。もぉあさなのぉ?」

「朝じゃないけど!!」

僕がそう言ったときに誰かが叫んだ。

「大変だ!!街が!街が燃えてる!!」

……一瞬僕の体は硬直した。

…うそ……でしょ?…また……またあんな思いをしなきゃいけないの?

「そんなの嫌だ!!」

僕は思わずそう叫んでしまった。

さすがのエリアもその叫び声で完全に目を覚ました。

そして現状を知った。

「そんな……」

エリアも思わず声に出してしまっている。

「悲しむのは後だ!!とにかく今はここから脱出するんだ!!」

ラーデさんの言葉で我を取り戻した僕たちは、とにかくこの家から出ることにした。

荷物を持って外へ。

するとそこにはけして見たくない光景が映し出されていた。

………燃えていた。

………本当に燃えていた。

民家も、療養所も、教会も。

でもお城は燃えていなかった。

きっとお城には巡回している兵士たちがいるから、いち早く気がついて消火活動を行ったんだと思う。

そして、この城下町にもお城から消火班が到着しているみたいだ。

たくさんの魔法使いが水の魔法を使って消火活動を行っている。

でも、予想以上に火の周りが早いみたいで、被害の拡大を抑えるのが精一杯みたいだ。

「とにかく早く非難するんだ!!」

お城の兵士が避難の誘導をしていた。

人々がいっせいに誘導に従って非難している。

家の中にいたラダ村の人達もその誘導に従って非難し始めていた。

「……ラーデさん」

「…なんだ?」

「……一体…一体誰がこんなことをしたの?」

……僕は思わずラーデさんに聞いていた。

「……さっきのアサッシンが何か関係してるの?」

「……………」

……なんでこんなことラーデさんに聞いてるんだろ。

ラーデさんに聞いてもわからないのに。

……ほかに当てがないからだろうな…多分。

「教えてあげましょうか♪」

!!

思い出したくない声を聴いたのはその時だった。



「どこだっ!どこにいるっ!?」

僕は周囲を見回しながら叫んだ。

明らかに聴いたことのある声。

いい思い出なんか全然出てこないその声。

………間違いない。

フィンセルの森で出会ったダークエルフ……ディーネだ。

「こ・こ・よ♪」

そう言って、ディーネは突然現れた。

前会った時と同じ格好だ。

ディーネは……僕の目の前で…浮いていた。

「フライかっ!」

クレストは嫌なものを見るようにつぶやいた。

「フライ!?あれは使ってはならない禁呪に指定されてて、普通覚えられないはず!!」

「『普通』はね♪」

エリアの疑問にディーネが答えだした。

「私はね、あの伝説にもなってる賢者『朱衣の声唱者』の弟子から様々な魔法を習ったのよ♪もちろん、その中にはフライのような禁呪も含まれているわ」

ラーデさんとエリアとクレストが言葉を失っていた。

…僕は何のことだかさっぱりわからない。

「………最悪だな」

ラーデさんがボソッとつぶやいた。

目の前にはディーネ。

周りはもはや炎の海。

僕たちには、もう成す術がないのだろうか?

「さ〜て、お話はここまで♪私はあなたたちを倒さなきゃいけないの。そう命令されてるからね♪」

ディーネはそう言うと、前にも見たタロットカードのようなものを取り出し、なにやら唱え始めた。

僕たちが行動する間もなく、ディーネの魔法は完成していた。

「いくわよ、ファイアーリング♪」

無数に出来た炎の輪が僕たちに向かって襲い掛かってきた。

「あっ、そうだ!セレス!エナジーコートを!!」

「駄目です!間に合いません!!」

咄嗟に思いついた『勇気の精晶術エナジーコートを使う』作戦も出来ず絶体絶命!

僕たち一体どうなっちゃうの!?

「ウォーターストーム!!」

……突然聞こえた叫び声と同時に迫ってきていた炎の輪は大量の水によって消えうせた。

「………な、何が起こったの?…誰かが魔法で助けてくれたんだよ…ねぇ?」

そう思わず口にしてしまうほど僕はびっくりしていた。

「い、いえ!違います!!」

嬉しそうにそう答えたのはシンクル。

何でそんなに嬉しそうにしてるんだろう?

「セイル、これは魔法ではありません。これは……精晶術です!!」

「精晶術だって!?っていうことは………」



To Be Continued

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