「とにかく行きましょ」
エリアのその一言で僕達は行動を再開した。
街の入り口を目指す。
人がいたらどうしようと心配していたけど、さすがに深夜だから周りを見まわしても街内に人は見当たらない。
外の空気は肌に涼しく、室内との温度差が心地いい。
夜の空はラダの村から見た空と同じく雲一つない。
星が綺麗だ。
そんな空の下、僕達は街の入り口についた。
僕達は受付からちょうど死角になる街塀の影にいる。
僕はその街塀の影から受付を覗いた。
しかし、受付には人がいるはずなのに見えない。
「・・・どうしたんだろう?」
「・・・さぁ?」
僕達は受付に人が見えなかったから街塀の影から出て、入り口から外へ出ようとした。
しかし・・・
「待て!!」
「きゃっ!!」
「うわっ!!」
あまりにも突然に受付から声が聞こえたから思わず叫んでしまった。
きっとエリアもそうだ。
でもなんか聞いたことがあるような声だ。
この声の主は・・・
「ラーデさん!!」
「・・・セイル、エリア・・・そしてセレス」
「!!」
「ラーデさん、なんでセレスのこと・・・」
「お前達がこそこそ何か話してたじゃないか、リュックに向かって」
「・・・・・・・・・・」
「まぁそうでなくても知っているがな、なぁ勇気の妖精セレス」
「・・・あなたはいったい何者なのですか?」
セレスはリュックから出てラーデさんに不信そうに質問した。
「私はただの元冒険家・・・ただちょっとばかり他の冒険家より知識があるだけだよ」
「本当に・・・そうなのですか?」
「・・・・・まぁ『私』はそうだ」
「?」
「ミラージュ=レゼットという名を聞いたことがあるだろう」
「!!・・・前・・・勇精者・・・・・」
「そう・・・私はそのミラージュ=レゼットの子孫・・・・・」
「・・・・・そうだったのですか」
「・・・やはりセイルが勇精者なのか?」
「・・・はい・・・間違い無く」
「そうか・・・セイル!」
「は、はい?」
「・・・負けるなよ!」
「・・・・・?」
「・・・で、フィンセルの森に行くんだろ」
「・・・う、うん」
「あそこは凶悪な魔物が多い、それに『出口なき森』と言われるくらい複雑な森だ」
「うん・・・知ってる」
「正直言って今のお前達では無駄死にをしに行くだけだ」
「!!」
「私はお前達にフィンセルの森に行くことを勧めることはできない」
「・・・・・・・・・・」
「だが、どうしても行くんだろ?」
「も、もちろん!!」
「そうだな、それでこそ勇精者だ。・・・想精者がそのフィンセルの森にいるならなおさらだな」
「・・・・・あなたは本当に知識を持っていらっしゃいますね」
「あぁ・・・まぁな・・・」
「・・・どういうこと?」
「・・・前勇精者ミラージュ=レゼットは前想精者クリス=ティニーと恋愛関係にあった。あるときクリスはある城で囚われの身になった。そのときミラージュは血相を変えて他の精者に事を伝えることも無くクリスの元へ向かったという。勇精者はそういう者なんだろう」
「・・・でもクレスト王子は男だよ」
「はははっ!そういうことなんじゃないのか!!」
「や、やめてくださいよ!!」
「・・・まぁそれはおいといて、さっきも言ったがお前達だけじゃ無駄死にをしに行くだけだから・・・私もお前達と一緒に行く」
「えっ!ラーデさんが!?」
「あぁ、私はフィンセルの森に何度も入ったことがある。それに少なくともお前達よりは強い自信はあるからな・・・それとも何か不満でもあるか?」
「いえ!そんなことないです!!一緒に行ってください!!」
「よし!そうと決まればさっそく行くか!!」
「・・・そうですね、急がなければいけません!」
僕達はラーデさんという心強い?味方を仲間に入れてフィンセルの森へ向かう。
「・・・そういえば受付にいた人はどうしたの?」
「あぁ、ちょっとばかり眠ってもらったよ」
「・・・・・・・・・・」
僕達はエルフィンの入り口を出て、ひたすら南へと進みだした。
街塀で守られている街内とは違って街の外は夜風が強く、山の木々が騒々しく叫んでいる。
フィンセルの森への道はよく舗装されている。
魔物が現れたときに迅速に対処できるようにするためみたいだ。
それにしても・・・
「・・・なんか寒くなってきてない?」
「・・・たしかにそうね」
僕とエリアはラダの村にいたときから同じ服装でいるから、気温の変化がよくわかるみたいだ。
「・・・森の中はもっと寒いぞ!このくらいで寒いなんて言ったら後々もたなくなるぞ!!」
・・・そう言っているラーデさんは強化布で作られた防護服を着こみ、愛用の細身の剣を携えている。
防寒対策万全って感じだ。
フィンセルの森への道は進んでいくうちに徐々に幅が狭くなり、木々が占める割合が増えてくる。
「あれ?」
僕はあることに気がついて声をあげた。
「どうしたの!?」
エリアは僕の突然の声に突発的に反応した。
「あ、いや、たいした事じゃないんだけどなんかフィンセルの森に近づいていくにつれて空が曇ってきているような気がするんだけど・・・」
空には夜でもその黒さがよくわかる黒雲が徐々に大きさを増してその姿を主張している。
「・・・嫌な雲だな」
「・・・そうですね、何か異様なものを感じます。そしてシンクルの存在を感じます」
「やっぱりクレスト王子がフィンセルの森にいるのは間違いないみたいだね」
「・・・急ぎましょう」
僕達はフィンセルの森へ急ぐ・・・
フィンセルの森・・・
その入り口は出口無き迷宮への入り口・・・
さぁ、勇気ある者のみこの入り口より入るがよい。
・・・そんなことが書いてある立て札がフィンセルの森の入り口に立ててあった。
きっと誰かのいたずらだろう。
「・・・ついたな」
「・・・ついたね」
「・・・ついちゃった」
「・・・つきましたね」
立て札の出迎えを受けた僕達はついについたフィンセルの森の異様さに言葉の続きが出なかった。
入り口の奥から吹きこんでくる風は妙な冷たさを帯びている。
「・・・行きましょう!」
僕達はセレスのその一言で出口なき森の中へ入る決心をした。
エリアがライティングの魔法で光球を作り出す。
そして森の中へと進みだした・・・
「・・・ねぇ、セレス」
「何ですか?」
「クレスト王子の・・・シンクルさんのいる場所ってわかる?」
「・・・はい、おおよその位置はわかります」
「じゃあ、セレス・・・道案内してくれない?」
「えぇ、わかりました」
セレスは僕達の前まで来ると目を閉じ、せいしんを集中し始めた。
風がセレスの髪をなびかせる。
「・・・ついてきてください!」
セレスはそう言うと森の奥へと進んでいった。
「・・・行こう!」
僕達はセレスの後についていく。
森はまるで生きているかのようにその表情を常に変えていく。
1つ1つの木の形、葉の揺れ方、木目のデザイン。
その細かい違いがものすごく大きな違いに感じられる。
歩きながらふと正面を向くとセレスの後姿。
セレスの羽のはばたきがライティングの光球の光を受け、時々飛ぶ鱗紛のようなものと共に綺麗に翠緑色に輝く。
妖精の名にふさわしい姿だ。
空を見上げると分厚い黒雲が僕達を嘲笑うかのように浮かんでる。
もう空に晴れた夜空の姿は見うけられない。
何か妙な・・・押し付けられるような圧迫感を感じるのは気のせいなのかな?
バサバサバサバサ
「きゃっ!」
「な、何?」
音がした方向を見てみると木の影からコウモリの群れのようなものが黒雲の夜空に飛んでいこうとしているところだった。
数はおびただしい程だ。
その黒い容姿は黒雲の夜空と合わさるととても見にくい。
「どけっ!」
「えっ?」
急にラーデさんが大声を出した。
僕とエリアはとっさにその場から離れた。
セレスは僕の背中に素早く隠れる。
ラーデさんは右手を細身の剣にそえると素早く抜き、その勢いを保ったままコウモリの群れに向かって振り下ろした。
「ぎゃ〜!!」
・・・とてもコウモリらしからぬ叫び声をあげ、群れの中の1匹が地へと落ちた。
よく見てみるとその一匹はコウモリではなかった。
それはコウモリと同じ様な羽を持ち、1つの大きな目を持った生き物だった。
「こいつは誰かの使い魔だ。きっと俺達を監視していたんだろう。たぶんクレスト王子を操っていると思われるやつの仕業だろうな」
「・・・か」
「ん?」
「か、かっこいい〜!!」
「は?」
「いや、スゴイな〜って思って!さすが元冒険家だね!!」
「・・・それはそうと先を急ごう、このペースだと間に合わないかもしれないぞ」
「そ、そうだね」
何かラーデさんが冒険家と言われるのを嫌ったような気がしたけど・・・まぁいいか。
僕達は再び進む。
地に落ちた生き物は音もなく塵と化した。
・・・ここは森の中。
森の中の何処?
いったい僕達は何処を進んでいるの?
周りの表情。
この場所は一度来たことがあるような・・・
僕達は・・・本当に進んでいるの?
「ねぇ、セレス?」
「何ですか?」
「・・・いや、何でもない」
僕は思わずそんなことをセレスに聞こうとしてしまった。
そんなことを聞いてもしかたないのに。
そんなことを聞いたらセレスのことを信じていないことになっちゃう。
・・・でも、そう思っちゃうくらいにこの森には不思議な力があった。
僕達はずっとセレスの先導でこの森の中を進んでいる。
もう『森の中のこの場所を進んでいる』という感覚はこれっぽっちもない。
さすがに『出口なき森』と言われるだけのことはある。
「・・・近いです」
「えっ?」
急にセレスが声を出したからちょっとびっくりした。
「シンクルがいる場所が近いです、ただつい先ほどまで動いていたのがちょうど今止まりました。きっとクレスト王子を操っている人が指定した
場所にたどり着いたのでしょう」
「急がないと!!」
「もうすぐです!!」
セレスはそう言うとペースをあげる。
僕達もセレスに続く。
・・・なんだろう?
なんか徐々に辺りが暗くなってきているような・・・
僕は後ろからついてきているはずのエリアのほうを向いた。
エリアはライティングの光球を相変わらず出し続けている。
しかしそのライティングの光球の輝きが徐々に失われてきていた。
そしてエリア自身も苦しそうな顔をしている。
ライティングの光球を出し続けているのが辛いという感じに見える。
「大丈夫?」
「・・・えぇ・・・だいじょうぶ・・・だけど・・・ライティングがもつかどうか・・・・・」
エリアがそう言っている間にもライティングの光球の輝きは薄れていっている。
早くしないと辺りが真っ暗になってしまいそうだ。
「エリア、無理するな。ライティングの光球、消していいぞ」
そう言うとラーデさんは細身の剣を抜き、目をつぶって意識を集中させる。
すると細身の剣の剣先の部分から徐々に刃全体にかけて白く輝きだした。
その輝きはすでにエリアのライティングの光球の輝きを遥かに越えている。
「・・・すごい・・・ラーデさんってこんなことできるんですね」
エリアは驚きを越えて尊敬のまなざしをラーデさんに向けている。
「まぁ長い間冒険をしていればいろんな芸当を覚えるものさ。・・・それにしても魔法の効果が薄れていっているという事はクレスト王子を操っているやつは相当魔力の強いやつだな」
「何でそうわかるんですか?」
「魔法の効果を薄れさせるには二つの方法がある。1つはマジックダウンの魔法でその対象の魔力を低下させる方法、これは近距離じゃなければならないから今の状況ではありえない」
「・・・はい」
「そしてもう1つの方法は一定の区域にマジックウォールという魔法で結界を張り、その結界内にいる者の魔力を低下させるというものだ。マジックウォールは本来魔法の攻撃を防ぐために使うものだが応用次第ではこういうことも可能なはずだ。この方法での範囲はとても広い。ただし、その分結界を張る者がかなりの魔力を持っていないとこの方法を使うことはできない」
「・・・もしかしてその結界って」
「おそらくこの黒雲が何らかの意味を示しているだろう」
エリアとラーデさんが話しているうちにライティングの光球はその姿を消した。
「さあ!とにかく急ごう!!」
僕達は再び先を急ぐ、クレスト王子が・・・そしてシンクルさんがいる場所まではもうすぐだ。
「もうすぐです!ここを右側に行けば・・・いました!!」
そこには大きなきりかぶに座っている赤い髪で高級そうな服を着た人が、そしてその人の手にはフェアリーストーンがあった。
クレスト王子にシンクルさんだ。
「大丈夫ですか!!」
僕はクレスト王子に向かって声をかけた。
しかし、返事はない。
僕達はクレスト王子の目の前まで来てみる。
クレスト王子の目は焦点が合ってなくて濁っていた。
ただフェアリーストーンをき付く握り締め、きりかぶに座っているだけだ。
「クレスト王子・・・」
僕はそう言ってただ見ていることしかできなかった。
「シンクル・・・」
セレスも同じ様な気持ちなのかな・・・
「・・・これはクレスト王子を操っている奴を倒すしか手がないな」
ラーデさんもなすすべ無しといった表情だ。
その時・・・
「そのとおりだよ!その王子様を助けたかったらこの私を使い魔と同じ様に倒すんだね!!」
「!!」
突然の後ろからの声に僕は慌てて振り返った。
そこには色黒の肌、シルバーのピアスをした長い耳、ディープブラウンのロングヘアー、前は腰のあたり後ろはひざの裏あたりまであるボルドーのロングコートのようなもの、同色のショートパンツを着ている綺麗な人・・・いや、たぶんダークエルフ・・・がいた。
「お前・・・ラダの村をあんなことにした奴だな!!」
!!
ラーデさんが言った言葉は僕の平常心を徐々に失わせる。
「あら、『お前』だなんてひどいわね。私にはディーネ=ラグっていうちゃんとした名前があるのよ」
・・・お前が
「名前なんてどうでもいい!!」
・・・お前が!
「そんなことないわよ、名前は大切でしょ♪」
・・・お前が!!
「うるさい!!」
「・・・お前がやったんだな!!」
僕は平常心を失った。
ただ怒声をディーネに向かって吐いた。
「あら、かわいくて威勢のいい坊やだこと。お姉さんそういう子好きよ♪」
「うるさい!これでもくらえ!!」
僕は短剣を抜き、ディーネに向かって振り下ろした・・・と思う。
しかし・・・
「あらあら、そんな攻撃の仕方じゃいつまでたっても当てられないわよ」
僕の攻撃は空を切る。
僕は怯まず連撃を仕掛ける。
「だからそんな攻撃の仕方じゃ当たらないって。ふふふ、でも一生懸命なところがかわい〜♪」
「くっ、このっ!!」
僕は更に攻撃を仕掛ける。
しかし難なく避けられて・・・
「うっ!!」
何だ・・・体が・・・動かない・・・・・
「ふふふ、ごめんね。でもいつまでも遊んでばっかりはいられないからちょっとそこで待っててね、後でゆっくり遊んであげるから♪」
ディーネはいつのまにかロングコートみたいなもののポケットの中からタロットカードみたいなものを取り出して、呪文を唱えてタロットカードを上に回転させながら投げ、魔法を僕に対してかけていた。
ディーネは動けない僕の前に来るとそっと僕の唇に・・・・・!!
・・・僕のファーストキスはあっさりと奪われた。
全身の感覚がないはずなのに唇の触れる感触ははっきりと感じた。
何の抵抗もできない自分に腹が立った。
「セイルっ!!」
ラーデさんの叫び声が聞こえる。
僕の目は開いているけど首を動かすことができないからラーデさんがいる右後ろの方向を見ることはできない。
誰かが駆ける音が聞こえる。
そして剣を抜く音が聞こえる。
その時に僕の視界にディーネの姿はもうなかった。
僕の背後で剣を振るう音が聞こえる。
ディーネが放ったと思われる魔法が炸裂する音が聞こえる。
そしてエリアの叫び声が聞こえる。
エリアとラーデさんが頑張っているのに僕はなにもできずにいた。
そんな僕の視界に急に飛行物体が現れた。
「セイル!」
セレスだ!!
*聞いてください!
ん?
*今はセイルの心に対して話しています。意識を集中してください!
僕はセレスに言われたように意識を集中した。
*今からセイルにかけられた魔法を精晶術で解きます。
うん、わかった!
*ではこれからリムーブスペルの勇気の精晶術を使います。まずセイルの心と私の心を一つにします!セイルが自由に動けるようになることを想像してください!
うん・・・・・
僕は想像した・・・自由な自分を。
・・・するとなんだか僕の体が徐々にあったかくなってきた。
なんか・・・だれかにやさしく包まれているような・・・・・
僕の身体は徐々に自由を取り戻し始めた。
頭、手、足、そして全身が自由に動くようになった。
僕は静かに右後ろを向く。
そこにはディーネと僕が見たことのないラーデさんがいた。
ラーデさんはものすごい速さでディーネに斬りこむ
ディーネはそのラーデさんの攻撃をギリギリのところで避ける。
ただ見た目ではディーネの防戦いっぽうというふうに見える。
しかしディーネはラーデさんの攻撃を避けながら魔法を唱えていた。
「いくわよ♪アイスダスト!」
ディーネがタロットカードのようなものを回し投げるとラーデさんの周りに氷の塵が飛び回り、ラーデさんの身体を傷つける。
鮮血が舞う。
それでもラーデさんは怯まず、魔法を唱え終わったばかりのディーネに再び斬りこむ。
その攻撃もディーネはすれすれのところで避ける。
しかし無理な体制で避けたディーネは体制を崩した。
チャンス!!
僕は一気に身体を振り返らせるとディーネの背中に向かって探検を水平に凪ぐ。
ディーネのロングコートみたいなものの後ろの長い部分が切り落とされる。
・・・とどかなかった。
「へぇ、やってくれるじゃない♪ちょっと分が悪そうね。今回は引くわ、無駄死になんてしたくないしね」
ディーネはそう言うと高く跳び、木の枝の上に立つ。
「それじゃ!また会いましょうね可愛い坊や♪」
ディーネはその場から消えた。
僕はその場にどっと腰を落とした。
空の黒雲は消え去り、まばゆい朝日が照らされていた・・・
「・・・はっ!ここはいったい!!」
ディーネの束縛から開放されたクレスト王子が状況を把握できずに周りを見まわしながら素っ頓狂な声をあげた。
「王子様!」
「大丈夫ですか!?」
僕とエリアはクレスト王子に思わず声をかけた。
「・・・君達は?」
「ぼ、僕はセイルです!」
「私はエリアです」
「僕はいったい・・・なんでこんなところに?」
クレスト王子はまだ意識がはっきりしていないところがあるみたいだ。
「王子は・・・操られていたんです」
ラーデさんはディーネの魔法で受けた傷に耐えながらクレスト王子に話しかける。
「・・・操られていた?・・・何故?」
「それはシンクルを狙っているものがいるからです」
セレスがクレスト王子の前にやってきて答えた。
「君は・・・シンクルの仲間なんだね!」
「えぇ」
「それじゃあシンクルを君のように元の姿に戻すことができるよね!・・・ん?そう言えば僕がシンクルからシンクルを元に戻す方法を聞こうとしたとき急に空が黒雲で覆われて・・・」
「・・・きっとその時に操られてしまったんでしょう。それでシンクルを元の姿に戻すことができるのは王子様だけです」
「僕が・・・」
「そうです」
「でもどうすれば・・・」
「それは直接シンクルから聞いてください」
「・・・・・・・・・・」
クレスト王子は手に持っていたフェアリーストーンを抱きしめ、目を閉じる。
そしてしばらく沈黙が続く。
きっとクレスト王子とシンクルさんが会話をしているんだろう。
しばらくするとクレスト王子に抱きかかえられているフェアリーストーンが紅赤色に光り出した。
最初はフェアリーストーンの中心にだけあった紅赤色の光りは徐々にその域を広げ、フェアリーストーン全体から光を放つようになった。
そして・・・徐々にシンクルさんがその姿を現し始める・・・・・
シンクルさんはその姿を完全に現した。
紅赤色のショートヘアーに紅赤色の服、そして針のような剣を持っている。
クレスト王子とシンクルさんは同時にゆっくりと目を開けた。
クレスト王子の濁っていた瞳は改めて見てみると紅赤色に透き通った目に変わっていた。
シンクルさんの瞳もクレスト王子と同じく紅赤色だ。
「シンクル!」
セレスは喜びを声でいっぱいに現した。
「セレス!!」
シンクルさんも本当に嬉しそうだ。
「シンクル・・・ごめんね早く元の姿に戻すことができなくて」
クレスト王子は申し訳なさそうに言った。
「そ、そんなことないですよ〜!私のほうこそ王子様に迷惑をかけちゃって・・・」
シンクルさんはクレスト王子に向かって頭をぺこぺこ下げている。
「いや、そんなこと・・・とにかく良かったよ!シンクルが元の姿に戻ることができて!」
「本当に良かったね!クレスト王子も無事自由になれたしシンクルさんも元の姿に戻ることができたし!!」
「ありがとうございます!あなた方が王子様と私を助けてくれたんですよね!!」
「う、うん。まぁ・・・ね」
シンクルさんが僕の目の前に来て目を潤ませながら話してきたからちょっと恥ずかしくなっちゃった。
「君達が助けてくれたんだね・・・ありがとう!」
クレスト王子も僕達に向けて頭を下げた。
「や、やめてください!そんな・・・」
「いや、君達は命の恩人だよ。本当にありがとう」
「・・・どういたしまして!」
エリアがクレスト王子に答えてくれた。
僕の代わりに答えてくれたのかもいれない。
「・・・シンクル」
「・・・セレス」
「・・・今世界がどういう状態になっているか・・・わかってるよね」
「・・・うん、もちろんわかってるわ」
「・・・ついてきてくれるわよね?」
「・・・えぇ、でも・・・・・」
シンクルさんはそう言いながらクレスト王子のほうを見る。
「僕はかまわないよ。だって僕は必要とされているんでしょ!司者として、そして想精者として」
「王子様・・・」
「さて!じゃあとっととこの森から出ようぜ!!」
今まで黙っていたラーデさんが急に声を出した。
「は、はい!!」
・・・思わず返事をしてしまった。
「でもどうやってこの森から出るの?」
それは森にはいるときからの疑問だった。
いくらラーデさんが元冒険者でもここはあの『出口なき森』いったいどうやって・・・
「それはな!・・・これだ!!」
そう言ってラーデさんは一本のなわを取り出した。
「あ〜!!テレポートロープ!!」
僕は思わず笑いながら叫んでしまった。
「おっと!こいつはテレポートロープじゃないぜ!!」
「えっ?」
「こいつはな、普通のテレポートロープに魔力を更に注ぎ込んだスペシャルテレポートロープだ!普通のテレポートロープの3倍の距離まで行けるぞ!!」
ラーデさんは思いっきり胸を張って答えた。
「・・・効果はいいとしてその名前どうにかならないの?」
「まぁ細かいことは抜きだ!ほら!とっととみんなつかまれ!!」
僕とエリアとクレスト王子、そしてセレスとシンクルさん、みんなつかまった。
「よし!行くぞ!!」
僕達はフィンセルの森から出ることに成功した。
森の中にはディーネが着ていたロングコートみたいなものの断片が寂しそうに落ちていた・・・
フィンセルの森の入り口。
そこにある立て札。
僕はその立て札を見て思った。
僕達はみんなでフィンセルの森に入って、そしてみんなで戻ってきたぞ!!
空にはもうあの異様な黒雲はない。
でも嫌な雨雲が現れていた。
「クレスト王子、シンクルさん、雨が降らないうちにエルフィンへ戻りましょう!」
「セイル君、僕のことは王子だなんて言わなくていいよ」
「私もさん付けしなくていいですよ」
「・・・じゃあ僕のことも君付けしなくていいですよ!・・・急いで戻りましょう!クレスト!シンクル!」
「そうだね!」
「えぇ!」
「それじゃあ急ぎましょ!」
エリアが一人前へ出て僕達を促した。
僕達はエルフィンへの帰途を進み始めた。
「ねぇセレス?」
シンクルが帰途の途中でセレスに声をかけた。
「何?」
「他のみんな・・・他のフェアリーストーンがある場所ってわかってるの?」
「・・・いいえ」
「・・・そう」
セレスもシンクルもなんだか表情が暗くなってしまった。
「・・・もしかしたらお父様に聞いてみれば何かわかるかもしれません」
クレスト王子の言葉にセレスとシンクルは過剰に反応した。
「本当ですか!」
「本当!?王子様!!」
「え、えぇ・・・たぶん」
「急ぎましょう!!」
セレスは今まで僕達に見せたことのないような笑顔だった。
・・・きっとシンクルと合えたから仲間のことを思い出したんだろうな。
ザアザアザアザア
「ちっ!降ってきやがったか!!」
突然空の雨雲から大粒の雨が降る出してきた。
「急ごう!!」
僕はみんなに向かって言った。
「そうだね!」
エリアは頷く。
「急ぎましょう!」
クレストは賛同する。
僕達は帰途を走り出した。
ピカッ
「?」
今なんか光ったような・・・
ドカーン!!
急に雷が落ち始めた。
「きゃっ!!」
横にいるエリアが・・・あれ?
エリアの声かと思ったらエリアは平然としている。
じゃあいったい誰の声?
僕は周りを見まわす。
するとクレストが地面にうずくまっていた。
ドカーン!!
再び雷が落ちる。
「いや〜!!」
・・・声の主はクレストだった。
でも『きゃっ!!』とか『いや〜!!』とかって・・・もしかして・・・・・
ドカーン!!
「きゃあ!!ごめんなさい!私なにも悪いことしてないよ〜!!」
・・・クレストは・・・想精者は女の子だった・・・・・
To
Be Continued