第1章〜勇気の妖精”セレス”〜


お願い・・・

誰か気づいて・・・・・

私を・・・

私をこの封印から解き放って・・・・・

お願い・・・

誰か・・・・・

世界が・・・

消滅してしまう・・・・・

誰か・・・

気づいて・・・・・



「・・ル」

「・イル!」

「セイル!!」

なんだ?この耳元に響く声は。

僕は今寝てるのに・・・

「セイル!起きて!!」

「・・・・・・・・・・」

「セ〜イ〜ル〜!!!」

「うわぁ!!」

僕は異様なほどの殺気を感じ取り、素早くベッドから飛び降りた。

ドン!!

・・・そこにはメイスによって真っ二つに切断されたベッドがあった。

避けていなければもうこの世にはいないだろう。

「起きた〜?セイル〜?」

「お、起きたよ。エリア」

「そ〜。それは良かった♪」

エリアの声が異様にやさしく僕の頭の中へ入り込んできた。

「うんうん良かった良かった・・・・・って違うでしょ!!」

僕はまだ声変わりしていない高音の声で叫んだ。

「いったいこれで何台壊したんだよ!うちのベッドを!!」

「う〜ん、と。大体30台くらいかな♪」

エリアは満面の笑みで答える。

・・・いつも通りのパターンだ。

「エリアに罪の意識ってものはないの!?」

「えっ?私何か悪い事した?」

エリアは平然と答える。

これもいつも通りのパターンだ。

「・・・・・もういいや」

僕はいつも通りに自分からこの話を切り上げた。

慣れてしまったのだ・・・こんなことに。



僕はセイル。

このラダの村に住んでる探検家だ!

歳は14歳、でも身長が低いからいつも10歳くらいに見られちゃうんだ。

あっ、身長は教えないよ!

そしてさっきメイスで僕のベッドを壊したのがエリア。

エリアも僕と同じ14歳。

普段はおとなしくてやさしいんだけど怒るとさっきみたいになるんだ。

まるで二重人格みたいなんだよ。

・・・・・今度から気をつけないと。



それにしても・・・

何だったんだろう、あの夢は?

僕はかすかに残っている眠気の中、頭を掻きながら夢のことを思い起こした。

気づいて?

封印?

解き放って?

世界が消滅?

・・・・・なんかわけわからないや。

一体何だったんだ?・・・・・

「ど〜したの、セイル?」

エリアは好奇心に満ち溢れた表情で僕に話しかけてきた。

「あのね、さっき寝てた時に変な夢を見たんだ」

「変な夢?」

「うん。なんかまるで僕のことを呼んでいるような変な夢を」

「で、どんな夢?」

「なんか周りは真っ暗で、ただ声だけが聞こえるんだ。『気づいて!』とか『封印』とか『解き放って!』とか『世界が消滅』とか言ってるんだけどね」

「ふ〜ん。もしかした本当に誰かがセイルのことを呼んでるのかもしれないわよ」

エリアは含み笑いをこぼしながら冗談混じりで言った。

「うん、そうかもしれない」

「えっ?」

エリアは冗談が通じなかったのが悔しいらしく、むっとした顔になった。

勝った!と、思った。



「そういえば何でこんな時間に起こしに来たの?今、夜中の1時だよ?」

「何言ってるのよ、セイルが夜にこの前クレット山に突然できた洞窟に行こうって言い出したんじゃない!」

そうだった。

すっかり忘れてた。

昨日僕がエリアを洞窟探検に誘ったんだ。

「ごめん、忘れてた」

「まったく、セイルはすぐに約束を忘れるんだから。」

「・・・ごめんなさい」

・・・抵抗のすべがなかった。

僕は自分でも嫌なくらいしょっちゅう約束を忘れてしまう。

この前もエリアの買い物に付き合う約束をしていたのに見事に忘れてすっぽかしてしまった。

当然その日は無傷ではいられなかった。

まぁとにかく極度の忘れ症なんだ。

「とにかく、行くんだったら早く行きましょ♪」

「うん、でもちょっと待って。荷物の確認をするから」

僕はそう言うとベッドの痕跡の横に置いてあるリュックを開けた。

中にはカンテラ、ダガー、簡易食品、フックつきロープ、水筒、マッチが入っている。

準備にぬかりはないみたいだ。

「エリアは忘れ物ない?」

「私?」

そう言うとエリアは背負っていたリュックを下ろし、中身を調べ始めた。

「えっと、ロッドでしょ、エフレアの実でしょ、テレポートロープでしょ、そしてガードリボン。とりあえず忘れ物はないみたいよ」

確かに忘れ物はないみたいだ。

「それにしても魔法を使う人って大変だね。いつもエフレアの実を持ってないといけないから」

エリアは魔法を使うことができる、魔法使いの卵だ。

エフレアの実っていうのは魔法を使うときに消費しちゃう精神力を補うことができる食べ物なんだ。

味は、僕は食べたことがないからわからないけど、エリアがいうには辛くて苦いらしい。

「慣れちゃうわよ、そんなの。それよりテレポートロープとかガードリボンのほうが普段持ち歩かないから持っていくのが面倒に感じるわよ」

テレポートロープっていうのは握って場所をイメージすることでその握った人をイメージした場所に移動することができるというものなんだ。

便利だけどあんまり遠くまでは行けないし、一度使ったら消えてなくなっちゃうから慎重に使わなきゃいけないんだ。

ガードリボンっていうのはつけている人を多少の物理的ダメージから守る力があるリボンなんだ。

魔法使いの人は、大体の人が物理的なダメージに弱いから、こういう物理的なダメージから身を守ってくれる装飾品をよく身にまとうんだ。

「それじゃあ準備もばっちりだし、クレット山の洞窟に行こう!」

僕とエリアは荷物を持って家を出た。

あっ、鍵もちゃんと閉めないとね。

僕は小声で「行ってきま〜す」と言った。

別に言っても誰も返事なんかしてくれないんだけどね。

僕は一人で住んでいるから。

両親とも二年前に「旅行に行ってくるから♪」って言ったっきり帰ってこない。

そういう親なんだ。

まぁ親がいないから自由に行動できるんだけどね。

そんなことを思いながら僕達はクレット山の洞窟へ続く道を進み始めた。



「ねぇセイル?」

エリアが道中突然話しかけてきた。

「な、何突然?」

「クレット山の洞窟って突然現れたんでしょ?」

「うん、そうだよ」

「何で突然現れたの?」

当たり前の疑問だ。

「そんなのわからないよ。1週間前に『突然クレット山に洞窟ができた』っていう話を聞くまでクレット山に洞窟があるなんて話聞いたことないもん」

そうなんだ。

いままで洞窟があるなんていう話はまったくなかったクレット山に、突然洞窟ができたらしいんだ。

「でもその洞窟には何もないんでしょ、何もないのに何で行くの?」

洞窟の話を聞いた村の村長さん達が3日前に洞窟の中に入ったらしいんだけど、結局何もなかったらしいんだ。

でも僕はその洞窟には絶対に何かがあると思うんだ!

「その洞窟には何かあるよ!絶対!!」

「何でそう言いきれるのよ?」

僕はポーズをとりながら言った。

「探検家のカンってやつかな!」

ポカッ!!

エリアのげんこつが僕の頭に降り注いだ。

「いった〜!何するんだよ!!」

「いつまで探検家気取りしてんのよ!まったく!!」

エリアは僕が自分を探検家だと思っていることが気にくわないらしい。

別にそんなのいいじゃないか・・・と、思うけどエリアの機嫌を損ねないうちに・・・・・

「ゴメンナサイ・・・」

・・・いつかエリアに謝らせてみせるぞ!



なんだかんだ話しているうちに洞窟についた。

その洞窟の入り口からはとくに洞窟が新しくできたという感覚は受けなかった。

外から見てもコケなどの植物が生い茂り、そして洞窟特有の涼しさを感じさせる。

非常に一般的な洞窟に見えた。

しかし他の洞窟とは違う部分があった。

それは洞窟外と入り口付近の洞窟内に同じ植物が同じ様に茂っているということだ。

最近できた洞窟なら、いくら種が入り込んでもそう簡単にこれほどまでには育たないはずだ。

それにもし最近できた洞窟なら、山の岩陰が崩れ太陽の日が洞窟内を照らすまでは太陽の日がこの植物に当たることは無かった筈だ。

それなのにこの植物は見事に茂っている。

「なんでだろう・・・」

「どうしたの?早く洞窟のなかに入ろうよ」

エリアは僕が一生懸命考えているのを知ってか知らぬか、僕を洞窟へと促した。

「・・・うん、そうだね!」

僕は考えるのを止め、持ってきたカンテラにマッチで火をつけ、洞窟探検への第1歩を踏み出した。



僕とエリアは洞窟内を進み始めていた。

入り口にいたときよりも気温は低く、もはや涼しさは寒さと化していた。

僕達は寒さを紛らわすためにも2人で話をしながら先に進んでいた。

今のところ洞窟の道はただただまっすぐに進んでいる。

しばらくはこの道の構造は変わりそうにも無いみたいだ。

「ねぇセイル?」

「何?」

「一体いつまでこの直線の道が続くのかな?」

「どうだろう、見た感じではまだ続きそうだけど」

「ちょっと走ってみない?」

「えっ、何で?」

「だってこのままじゃいつまでたっても直線の道だし、それに何より寒いから走った方が身体が温まるじゃない」

「まあそうだけど・・・」

「じゃあお先に!」

そう言うとエリアは走って行ってしまった。

ん?でもエリアはカンテラを持ってないから先が見えないんじゃないか?

そう思っていると、前の方がぼんやりと明るくなった。

走って先へ進んでみると、エリアの手の上に占い師が使う水晶球くらいの大きさの光球が浮いていた。

「何、それ?」

「これ?これは『ライティング』の魔法を使って作り出した光球よ」

「えっ?エリアそんな魔法、使えたんだ」

「1週間前くらいからね!」

エリアはそう得意げに話した。

「なんだ〜!そんな便利な魔法使えるんだったら、わざわざカンテラなんて持ってこなくたってよかったじゃないか〜!!」

「魔法は何回も使えるものじゃないのよ!そのくらい知ってるでしょ!!」

そう、魔法は何回も使えるものじゃない。

魔法は、持っている精神力を消費して使うものだから、精神力を使いきってしまえばその時点で魔法を使うことはできなくなる。

魔法を使わない人でも常識的に知っていることだ。

「でもエリアは僕と一緒にいれば、余計な精神力を使わなくて済んだのに、先に走って行っちゃって『ライティング』の魔法を使って余計な精神力を使っちゃったじゃないか!」

「だ、だって寒かったし・・・セイルが来るのが遅いのがいけないのよ!」

「なんだよそれ!!」

ガシャン!!

・・・僕は勢いよく両手を縦に振り、その結果持っていたカンテラを叩きつけてしまった。

カンテラは見事に使い物にならなくなった。

「・・・こ、これで『ライティング』を使ったことが無駄じゃなくなったね」

「そ、そうね」

「行こうか」

「そうね」

僕達はまたこの直線の道を歩き始めた。

いつのまにか身体は温まっていた。



しばらく歩いてると、ようやく今までとは違う左右への分かれ道にたどり着いた。

左の道はまたひたすら直線が続きそうな道、右の道はここからでも行き止まりだとわかる道だった。

「左の道みたいね、行きましょ!」

確かに・・・確かに見た感じでは左の道だけど・・・でも・・・・・

「ちょっと待って!」

「えっ、何で?」

「いや、ちょっと右の道の方が気になるんだ」

「えっ、だって右の道は行き止まりじゃない」

「そうなんだけど・・・なんか気になるんだ・・・・・」

「・・・ふぅ、また『探検家のカン』ってやつ?」

「まぁ・・・そうかな」

僕は遠慮気味に言った。

またエリアの機嫌を損なわせてしまうかもしれないと思ったから。

でもエリアは・・・

「じゃあ右の道にいってみましょ!」

「へ?」

なんか拍子抜けしてしまった。

「どうしたの?右の道に行くんでしょ?」

「う、うん。じゃあ行ってみよう!」

そして僕達は右の道を進み始めた・・・そしてすぐに行き止まりまで辿り着いた。

やはりどう見ても行き止まりだ。

「やっぱりただの行き止まりなんじゃないの?」

「う〜ん、何かあると思うんだけどなぁ」

「そんなこといったって実際何も無いじゃない、あるのはこの行き止まりの壁だけ!」

エリアはそう言うと、行き止まりの壁を触ろうとした・・・けどできなかった。

「きゃっ!!」

ドン!!

僕は目を疑った。

エリアは行き止まりの壁をすり抜けてしまった。

僕の目の前で。

「だ、大丈夫?」

「いった〜!一体何なのよこの壁は!!」

「ちょっと待ってて!僕もそっちに行ってみるから!」

僕はそう言うとその壁に手を伸ばした。

手は見事に壁を通り抜けた。

僕はそのまま壁を通り抜けた。

「一体何なんだろう、この壁?」

「さあ、まったくわからないわ」

「でもとりあえずこれで、村長さん達が進んだ道とは違う道を進むことができるみたいだね」

「そうみたいね」

「それじゃあさっそく先へ進もう!」

僕達は壁をあとにした。



壁をすり抜けた先の道は、妙に蛇行した道だった。

なぜか壁で生息しているコケの量が増えているように感じた。

蛇行した道はやがて直線の道になっていった。

その直線の道をひたすら進むと徐々に奥の方に翠緑色の光が見えてきた。

「・・・すごい」

「本当ね。なんかとっても綺麗」

「行ってみよう!」

「そうね!」

僕達は更に先へ進んだ。

翠緑色の光は徐々にその明るさを増し、ライティングの光球も要らなくなるくらいの明るさになった。

そして更に進むと僕達は大きな広間に出た。

その広間は20m四方くらいの広さで、周りの壁にはびっしりとコケが生えている。

広間の中央には1mくらいの高さの円柱形をした台があり、翠緑色の光はその広間の中央の台から発せられていた。

「・・・何なのかしら、この広間」

「さあ、ただあの真ん中の台が怪しいよね」

「調べてみる?」

「もちろん!」

「やっぱり・・・」

そして僕達は中央の台へと向かった。



中央の台に辿り着いた。

近くで見てみて、この台が水晶製だということがわかった。

この台から発せられていると思っていた翠緑色の光は、台から発せられているのではなかった。

台の上に、妖精の形をした石細工があり、翠緑色の光はその石細工から発せられていた。

「これってもしかして『フェアリーストーン』じゃない?」

「フェアリーストーン?」

「えっ!セイル知らないの!?」

エリアは心から驚いたような表情で僕に対して質問した。

「う、うん」

「あっきれた!フェアリーストーンの話を知らないなんて!!」

「御免ね!何も知らないで!!」

僕はちょっと頭に来た。

別にいいじゃないか!知らないことの一つや二つあったって!!

「何よ!別に怒ること無いじゃない!!」

「・・・・・で、一体どんな話なの?」

僕はこんな口喧嘩を長引かせたくはなかったからすぐに話を切り替えた。

「えっとね、このフィンの国のエルフィン城がラダの村から山を下ったところにあるでしょ。そのエルフィン城に住んでるクレスト王子がこの前『浄心の儀』を行ったの」

「浄心の儀?」

「・・・・・・・・・・」

一瞬辺りが静まり返ったのが妙に怖かった。

「・・・・・浄心の儀って言うのは、王族の人が18歳になったときに行う儀式で、その儀式を行って初めて王族の中で大人として扱われるようになるの。浄心の儀はエルフィン城の地下にある『洗礼の泉』で行われるんだけど、クレスト王子が浄心の儀を行っていたときに突然洗礼の泉に飾ってあった妖精の石細工が紅赤色に光だしたの。その妖精の石細工をクレスト王子がフェアリーストーンって呼ぶようになったっていうお話」

「へぇ〜。で、そのフェアリーストーンはどうなったの?」

「クレスト王子が「これは神が私にくれた贈り物です」なんて言って自分の部屋に持ちかえっちゃったらしいわよ」

「ふ〜ん。で、なんでそのフェアリーストーンがこんなところにあるの?しかもそのクレスト王子が持っていった紅赤色に光るフェアリーストーンとは違う翠緑色に光るフェアリーストーンが」

「そんなのこっちが聞きたいわよ」

「そりゃそうか」

「フェアリーストーンねぇ」

僕はふとそのフェアリーストーンに触ってみた。

そしたら突然僕の頭の中に声が流れ込んできた。

「お願い!」

「ん?」

「お願い!私を!!」

「んん?」

「私をこの封印から解き放って!!」

「誰だ!?」

「どうしたのセイル?」

「いや、なんか頭の中に声が流れ込んでくるんだ」

「私の声が聞こえるのですか!?」

なんだか嬉しさと驚きが混ざったような声が頭の中で流れた。

「うん、聞こえるよ」

「お願いです!私をこの封印から解き放ってください!!速くしないとこの世界が!!」

「封印から解き放つっていったってどうやって?」

「私が封印から解き放たれるように念じてください!封印されている私の声を聞くことができるあなたなら必ず私を封印から解き放つことがで
きるはずです!!」

「・・・・・わかった!やってみるよ!!」

僕は念じた。

ただただあの声の主が封印から解き放たれるように。

「ちょっとセイル、どうしたの?」

「エリア、ちょっと静かにしてて」

「えっ、どうして?何かあ・・・・・」

「お願い!」

エリアは僕の気持ちが通じたのか静かに待ち続けてくれた。

僕はまた念じた。

ひたすらに念じた。

すると突然フェアリーストーンから発せられていた翠緑色の光が眩しいくらいに輝いた。

僕はとっさに目を閉じた。

きっとエリアもそうだろう。

「ありがとう」

その言葉を聞いて僕は目を少しずつ開いた。

エリアもその声に気づいたようで、目をゆっくりと開けていた。

目の前には声の主がいた。

元気に羽を広げ空中に飛んでいる、翠緑色の服を着ている翠緑色の髪の毛をした妖精が。



僕とエリアは言葉が出なかった。

それくらいびっくりした。

だってさっきまで石細工だったフェアリーストーンが、本物の妖精になっちゃったんだから。

妖精は黙って僕達を見ている。

しばらくたって、少し落ちついた僕は思いきって話しかけてみた。

「君は・・・妖精だよね?」

すると妖精はなぜだかほっとした様子で僕の問いの答えてくれた。

「はい、私は勇気の妖精。名はセレスといいます」

「勇気の妖精?」

「はい、私は6精神の中の勇気を司る妖精です。そしてあなたは勇気の精神の持ち主、勇精者です」

「6精神?勇精者?」

「6精神というのは勇気、希望、信頼、努力、不屈、思想の6の精神を指します。そしてあなたは6精神の中の勇気を司る私の主、勇精者なのです」

「・・・・・・・・・・」

「あなたは封印された私の声を聞くことができた。これはあなたが精者の中の勇精者であるという紛れもない証拠なのです」

「・・・・・夢」

「え?」

いきなり言葉を口にしたからエリアは驚いたようだ。

「夢の中で聞こえた声・・・あれはセレスの声だったんだ」

「そうかもしれません」

「でもセイルが勇精者ねぇ。なんかミスマッチな気がするなぁ」

「あなたからも精神の力を感じます」

「えっ!私も!?」

「えぇ、おそらく。・・・ただ今までに感じたことのない精神の力です」

「6精神の中には無い精神だ・・・ってこと?」

「おそらく」

「・・・・・・・・・・」

それからしばらく会話は途絶えてしまった。

あまりにも突然のことだったからもう少し気持ちを整理する時間が必要だったんだ。

しばらくした後、エリアが話し始めた。

「ねぇセレス、セレス以外の妖精は何処に行っちゃったの?」

セレスは少しなにやら考えた後、エリアの問いに答え始めた。

「私と他の各精神の司者は数百年前、各精者と共に、この世界を脅かすものと戦い、この世界を守りました。そしてその後私達妖精は世界を脅かすものが再び世界を脅かすことの無いように封印したのです。私達妖精も封印されるというリスクを承知で。世界を脅かすものは封印されました。そして私達も」

「その封印された姿がフェアリーストーンっていうこと?」

「そういうことです」

僕はふと気になることができたから聞いてみた。

「あのさぁ」

「はい?」

「その世界を脅かすものは封印されたんでしょ?だったらなんでセレスは「世界が消滅してしまう」なんて言ってたの?」

僕が聞くとセレスは悔しそうに答えた。

「・・・世界を脅かすものの封印が解けそうなんです」

「えっ!どうして!?」

「正直言って理由はわかりません。しかし、世界を脅かすものの邪悪な精神を感じるのです。それに、あなたたちがここに入ってこれたということは・・・・・」

「え?僕達が簡単に入れちゃうとなにか問題でもあるの?」

「・・・この洞窟の入り口は、前の勇精者の『イリュージョンウォール』という魔法によって外からは見えないようになっていました」

「あの通り抜けられる壁のことだね」

「はい。しかし何者かによってずっと生き続いていたイリュージョンウォールの魔法が消されたのです」

「・・・一体誰がそんなことを?」

「わかりませんが、その何者かが世界を脅かすものの封印を解こうとしているのは確かでしょう・・・このままでは世界を脅かすものの封印は解かれ、この世界は混乱し、やがて消滅してしまうでしょう」

「そんな!どうすれば世界の消滅を防ぐことができるの!?」

「残りの司者と精者を終結させ、世界を脅かすものを封印から解こうとしている何者かを倒し、再び世界を脅かすものを封印する。それしかないでしょう・・・それには、あなたたちの力が必要です。あなた達には2つの選択肢があります。1つは私と一緒に残りの司者と精者を探し、世界を脅かすものを封印して、この世界の危機を救う。この場合、あなた達が危険な目にあう可能性は充分にあります。もう1つは、この世界の残りの時間を今まで通りの生活をして過ごす。この場合、世界が消滅するまであなた達が危険な目にあうことは無いでしょう。しかし、必ず世界は消滅します。・・・私に決定権はありません、決めるのは・・・あなた達です」



セレスが語った今の状況は、僕達にとってとてもショックなことだった・・・いや、きっとこのことは誰にとってもショックなことだろう。

この世界が消滅する・・・そんなの嫌だ!

なにもしないで世界の消滅を迎える・・・そんなの絶対に嫌だ!!

・・・セレスは僕達に選択肢は2つあると言ったけど、僕達に選択肢は無かった。

「行こう!残りの司者と精者を探しに!!」

僕は迷わずに言った。

きっとエリアも同じことを思っているだろう。

エリアは無言で頷いてくれた。

セレスは笑顔で言った。

「これからよろしくお願いします」



そうと決まれば膳は急げ、エリアが持ってきたテレポートロープで僕達は洞窟の入り口まで移動した。

テレポートロープは音も無く消えた。

僕達の次の行き先は決まっていた。

それはもちろんエルフィン城。

クレスト王子が持っているという紅赤に光るフェアリーストーンの元へ向かうんだ。

けどその前にラダの村でいろいろ準備をしないと。

そういう訳で、僕達はラダの村へと向かっていた・・・しかし。

「・・・・・うそ」

「・・・・・そんな!」

ラダの村は・・・燃えていた。

朝焼けの赤さをはるかに凌ぐ真っ赤な炎をあがらせて。

僕達の、これから長く続くであろう旅の幕開けは最悪だった・・・・・



To Be Continued

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