1.支援 [ ホリン×アイラ ]

ホリン×アイラ
ホリンとアイラ、仲良くツーショット? の図
[ 2004/08/29 ]
 広がる林は、そこに住む生命たちに数多の恵をもたらす場。
 一度その中に入れば、美しき鳥のさえずりが、萌える植物の息吹が、穏やかな空気と共に迎えてくれる。
 それは、この大地が長い年月を掛けて築きあげてきた、何物にも勝る輝きをもったものなのだが――

「包囲しろっ! 傭兵部隊は前線を、弓部隊は後方から援護だ!!」

 ――林内の穏やかな空気には似合わない叫び声が、幾重にも重なる金属のぶつかり合う音や、湿気を蓄えた土を踏み潰す音と共に響き渡っていた。
 環境の異変に敏感な小動物たちは、一目散にその場から離れていく。
「くっ、このままでは囲まれるのも時間の問題か!?」
 飛び交う矢を剣で凪ぎ払いながら、アイラはこの現状を厳しく受けとめていた。
 全体的な戦況はわからないが、少なくともこの場に限れば劣勢。
 押し寄せる敵兵の数と、周囲で倒れていく自軍の兵たちを見れば、それは明らかなことだった。
「アイラ様! このままでは我が隊の全滅は時間の問題。どうか、そうなる前にアイラ様はここから逃げ延びて下さい!!」
 必死な形相で叫び伝える自軍兵。
 その言葉に、アイラはより大きな叫び声を返す。
「バカな! そんなこと……出来るはずない! この私に、あなたたちを見捨てて自分だけ助かれと言うのか!? グランベルの人間であるあなたたちが、イザークの人間である私と共に命がけで戦ってくれているというのに!!」
 それは、間違い無くアイラの本心から出た言葉。
 ――あの日、ヴェルダンの地で、ジェノア城に捕らえられていたシャナンを助けたシグルドが放った『戦争とは残酷なものだ。……私は君を敵にはしたくない』という言葉。
 その言葉が、グランベルのことを憎み続けていたアイラの気持ちを動かしていた。
 グランベルにも、こんな言葉を掛けてくれる人間が居るんだということを、自ら証明してくれたシグルド。
 シグルドはその言葉に偽りの無い大望を抱いて、今も自ら戦場に立っている。
 けして、シグルドの――グランベルのためにというわけではなく、そのシグルドの大望に、アイラは自らの剣を捧げることを堅く誓ったのだ。
 その誓いは、これくらいのことで揺らぐものではなかった。
「動くぞ! 私が敵の注意を引く!! 今すぐ小人数の部隊を編成し、この場から離れるんだ! 林を抜けられた者は、早急にシグルドどのに現状の報告を!!」
 叫び終えると、アイラは自軍兵の返答を聞く前に、猪突の如く駆け出していた。
 黒の長髪をなびかせながら、襲いかかってくる傭兵たちを薙ぎ倒していく。
 まさに、その動きは恐ろしいほどに美しいものだった。
 ――直系ではなくとも、剣聖オードの血を引き継ぐ者として恥じない、見事な剣技を見せるその姿は。


 しかし、いくら類稀無い力を持っていようとも、一人では周りに居る十人ほどの敵兵を相手にすることは至難の技だった。
 すさまじい勢いで掛け抜けていったアイラの周りに、自軍兵の姿は見当たらない。
 誰も、その動きについてこれる者などいなかったのだ。
 その現状に、アイラは舌打ちをして心境を表現しているが、反面、しっかりと注意を引くことが出来ていることに、どこかでホッとしてもいた。
(……きっと、誰かがシグルドどのの元へと辿り着いてくれるに違いない)
 そういった願望めいた思いが、アイラの脳裏に浮かんでいた。
 シグルドの軍は少数だが、それでも大軍と対等にわたりあえるだけの精鋭が揃っている。
 この場における現状をシグルドに伝えることさえ出来れば、周囲を取り囲む敵軍たちを討つことなど、造作も無いことだろう。
 だが、それはあくまで『シグルド軍』全体としてのこと。
 ――アイラが絶体絶命の窮地に立たされていることには、何ら変わりの無いことだ。
 飛んでくる矢をかわしながら、アイラはふと、自らが振るう剣に視線を移す。
 装飾は申し訳程度のものだが、その刃の放つ煌きは他のものに勝る剣――

「――――ホリン」

 本人も気付かないうちに、その呟きは口から漏れていた。
 まるで、それが合図であったかのように、周囲に居た傭兵が一斉にアイラに向かってきた。


 * * *


「アイラ……」
 その声がアイラの元に届いたのは、シグルドから出陣の旨が告げられ、アグスティ城を跡にしてすぐのことだった。
 アイラが声に気付いて振り向くと、そこに居たのはホリンだった。
 ホリンは、自らが愛用している腰に携えた剣とは別に、布切れを被せられたもう一振りの剣を手に持っている。
「ホリン? ……どうした、私に何か用か?」
 アイラが訝しげに尋ねると、ホリンはさっと布切れを外しながら、手に持っていた剣を差し出す。
「……受け取れ」
「これは……勇者の剣ではないか! なんて美しい……。だが、私が受け取っていいのか? お前だって剣の使い手……勇者の剣の価値だって、わかっているはずだろ?」
 アイラが複雑な表情を向けながら言うと、ホリンは珍しく微笑みを見せながら言葉を返しだした。
「俺にこの剣は似合わないさ。……この剣は、お前にこそ使われるべきだ。お前の流れるような剣技は、この美しき勇者の剣を振るうにふさわしい」
「ホリン……」
 アイラはその言葉を聞くと、笑みを浮かべて剣を受け取った――
「……それに、イザーク王女の身に何かがあったりしたら、イザークの民が嘆くからな」
 ――が、次に掛けられたその言葉で一気に表情が変わる。
「私がそう簡単に敵に討たれると思っているのか!? なめられたものだ。……剣はありがたく受け取っておくが、お前にそんな言葉を言われる筋合いは無い!!」
 そう叫んで、ホリンの元から走り去っていく。
 ホリンは何か見透かしたように苦笑しながら、その姿が遠く離れていくまで見やっていた。

(どうして……どうして私は心にもないことを言ってしまうんだ……)
 ホリンの姿が見えなくなるまで離れたアイラは、表情を曇らせながら、そんなことを思っていた。
 ホリンが自分のことを心配して勇者の剣を渡してくれたということを、アイラはもちろんわかっていた。
 だが、アイラにとって『イザーク王女』という言葉をホリンから掛けられることは、あまり面白いことではなかった。――それは、
「やっぱり……あいつは、私がイザークの王女だから心配してくれているだけ……なんだろうな」
 それは、アイラにとってホリンという存在が、心の中の大部分を占める人物となっていたから。
 ――今までの人生の中で、最も気になる存在となっていたからだ。

 ホリンの剣には、アイラには無い『重み』があった。
 腕力の違いというのもあるかもしれないが、それだけではない。
 ホリンがこれまでに積んできた経験が、一つ一つ重みとなって剣に伝わっているんだろう。
 アイラは、何度かホリンと剣の手合わせをしたことがあったが、その時に身をもってそのことを実感していた。
 実際、アイラは一度も勝ったことがなく、一つ負けを積み重ねていく度に、ホリンのことを尊敬するようになっていった。
 ホリンは言う。
 『剣は、力だけで扱うものではない。お前には、力に勝る素早さがある』――と。
 アイラは、その言葉を自分の中で励みにしていた。
 ――自然と、アイラはホリンのことを色々な意味で意識するようになっていったのだ。

「あいつ……ホントのところ、私のこと、どう思ってるんだろ……」
 呟くアイラの耳に、進軍の合図が聞こえてくる。
(ダメだ! 今はそんなことを考えている場合ではないだろ!!)
 アイラは心の中で自分を戒めながら、争いの場へと歩みを進めだしたのだった。


 * * *


 ――乾いた金属音が響く。
 アイラは傭兵が繰り出してくる斬撃を素早く受けとめていたが、そのまま攻撃に転じることは出来ずにいた。
 一人の攻撃を受けとめても、次から次へと剣が迫ってくるために、それを受けとめるので精一杯なのだ。
「くっ、次から次へとうざったい!」
 せいぜい出来る攻撃といえば、そんな言葉を投げつけることだけ。
(このままでは、いずれ敵の勢いにやられてしまう……。もう、ここまでなのか? 私は、こんなところで……)
 アイラは想起の中で、『死』という最悪の結末を考えてしまうまで追い詰められていた。
 そのことを表情からは窺うことが出来ないのは、そこにアイラの『強さ』が表れているからなのだろうか。
 しかし、いくらそうであっても、絶体絶命の危機であることは変わらない。
(こんなところで私は……。ホリン……)
 ――アイラの動きに、わずかな隙が生まれていた。
 一直線に、アイラの元へ矢が飛んできていた。
 何とかギリギリの所でそれをかわすが、その反動で身体が大きく傾き、瞬時に次の行動へ移すことが出来ない。
 傭兵が、その瞬間を見逃すことは無かった。
 最後の一撃をくらわせようと、傭兵の剣が大きく振り上げられる――
(い、いやっ――)
「――ホリン!!」

 アイラはギュッと目を閉じながら、無意識のうちに叫んでいた。
 ――――しかし、アイラの身体を痛みが襲うことはなかった。
 その代わりに、誰かが奇声を上げながら倒れこむ音が聞こえてくる。
 ゆっくりと、アイラは閉じていた目を開く。すると――


「お呼びですか、お姫様」


 ――汗一つかいていないホリンが、単身、そこに立っていた。
 そして、先程までアイラに剣を向けていた傭兵が、絶命して倒れている。
「ホ……リン?」
 アイラは、一瞬、目の前にホリンが居ることが現実なのか幻なのかわからないでいた。
 しかし、自分がホリンに寄り掛かっている状態であることに気付くと、慌てて体勢を立て直してホリンに背を向ける。
「随分と苦戦してるみたいだな」
「う、うるさい! 少し油断していただけだ!!」
「……そうか? そのわりには――」
 言いながら、ホリンはチラっとアイラの足元を見る。
 アイラがその視線を感じて自分の足を見ると――
 ――アイラは、その細い足を小刻みに震わせていた。
(な、何で? 私が……恐怖を感じていたというのか? 私が……)
「……ふぅ。……あぁ、そうさ。苦戦してたさ。……私はか弱いイザークの王女だからな。せいぜいイザークの王女を守ってくれ」
 もう、アイラはどこかやけになっていた。
 だが、言ってすぐ、後悔の思いがアイラを包み込む。
(何を言ってるんだ、こんな時に! ……私は、こんなことを言いたいんじゃないのに。助けに来てくれたホリンに……私は……)
 その言葉を聞いたホリンは、小さく溜め息を吐いてから、少し照れているような表情を見せながらそっとアイラに囁きかける。
 ――その囁きは、アイラの心に染み渡る。


「言っておくが、俺はお前がイザークの王女だからここにいるわけではないからな。
 ――俺は、『イザーク王女』ではなく『アイラ』を助けに来たんだ。……変なこと、言わせるな」


「ホリン……それって……」
 アイラは予想外の言葉に、思わずホリンの方を振り向いていた。
 しかし、それを抑えるように、ホリンは言葉を掛ける。
「ほら、よそ見をするな! ……俺が知ってるアイラは、そんな隙をみせたりはしないぞ!!」
 それを聞いて、慌ててアイラは視線を戻す。
 ホリンが助けに来てはいるが、状況が苦しいものなのに変わりはない。
 むしろ、ホリンが増えたことで、より敵の放つ威圧感は増したようだ。
 この場の緊迫感が、より鋭いものになっている。
 ――だが、今のアイラは、まるでその緊迫感を楽しんでいるかのような笑顔を見せていた。
 アイラは敵との間合いを保つために、少し背後へと下がる。
 瞬間、衣服越しではあるがそっと触れ合う背中と背中。
(あっ……あたたかい……)
 そのあたたかさは、アイラの足の震えを一瞬にして治めていた。
 そして、アイラの心の中で、どこか曖昧だった一つの感情がはっきりとした形になっていく――。

「行くぞ、アイラ!」
「はい!」



 ――二人の背中が離れ、まるで舞っているかのように華麗な剣技が、所狭しと繰り広げられていった。







 ――そんなわけで、ホリン×アイラです。
 はたして、お題の『支援』に合った内容になっているかどうか……ちょっと微妙ですかね?
 この、『FE・TS恋人たちに30のお題』で最初に書いた作品。っつ〜か、こういった二次小説自体、書くのは始めてでした。
 まぁ、そう考えれば、最初にしてはまぁまぁかなぁ……なんて、自分では思っています。
 え〜、とにかく、私の中ではアイラのお相手はホリンです。
 流星剣+月光剣はいぢめです(笑)

 2004/08/26


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