紅葉 |
休日の公園のベンチ。
そこは俺の憩いの場所だ。
ベンチの背にもたれ、顔を天へ向ける。
あらゆる場所に植えられている木々は、そろって鮮やかに葉を着飾っている。
赤、黄、橙、そしてわずかに残る緑。
その姿はさまざまだ。
時折吹く北からの風は、その葉をいくつかさらっていく。
もう季節は完全に秋だ。
俺がそのままの状態で目を閉じて秋を感じていると、小さい子供のものと思われるにぎやかな声が聞こえてきた。
「わ〜い!はっぱ♪はっぱ♪」
声の主の方を向くと小さな女の子が地面に落ちている葉を嬉しそうに拾っていた。
女のこのすぐ近くには大人の女性が一人。
あの子のお母さんなんだろうか?
女の子はしばらく葉を拾い続けていたが、突然葉を拾うのを止めて何か考え込み出した。
しかし答えが出てこなかったらしく、女の子はお母さんと思われる女性に何か話しだした。
「ねぇ、何ではっぱさん達は赤くなったり黄色くなったりするの?」
それが女の子の疑問だった。
子供らしい素直な・・・そして難しい疑問だった。
少なくとも俺にはわからない。
女性は少し考え、そして言った。
「あのね、はっぱさん達が赤くなったり黄色くなったりするのは木さんが恥ずかしがってるからなんだよ」
「木さんが?」
女の子は意味がよくわからない様子だ。
俺もわからない。
女性はやさしい笑顔を見せながらゆっくりと説明し始めた。
「そうよ、木さんは冬になるとはっぱが無くなっちゃうのは知ってるよね?」
「うん、知ってるよ」
「はっぱが無くなっちゃうってことは木さんが裸になっちゃうってことなのよ」
「うん」
「でね、木さんはこれから冬になって自分が裸になっちゃうってことをちゃんと知ってるの。だから秋になると木さんはみんな恥ずかしがってはっぱを赤くしたり黄色くしたり橙色にしたりするの」
「そっか〜!」
それはどんな人にもわかりやすい女の子の、そして俺の疑問の答えだった。
俺の顔は知らぬ間に笑顔になっていた。
なんか和むんだ。
笑顔にせずにはいられない。
そんな気分だ。
「ねぇ、あの人知ってる人?」
突然女の子が俺のほうを指差して女性に問い掛けた。
俺がずっと女のこと女性の方を向いていたので気になったのだろう。
「ううん、知らない人よ。でも・・・今から知ってる人ね♪」
女性はそう言うと俺に向かって笑顔で会釈をした。
ドキッ
急激に俺の心拍数は上がり、顔は真っ赤に染まる。
それが手に取るようにわかった。
「こ、こんにちは。親子で散歩ですか?」
俺は妙に焦って、自分でも『いったい何を聞いてるんだ!』と思うようなことを口にしてしまった。
「あ、この子は私の子じゃなくてうちの幼稚園の園児ですよ」
「それに先生はまだ結婚してないもんね〜♪」
「こ、こら!そんなこと言わないでよ!」
女性・・・先生は恥ずかしそうに女の子に注意した。
俺はますます顔を真っ赤にする。
・・・止まらない。
「あ、あの、せっかくですからいっしょに散歩しませんか?」
先生は満面の笑顔で俺を散歩に誘ってきた。
もう俺の顔は赤一色だろう。
・・・・・どうやら俺の心も裸にされそうだ。
俺は断る理由も無いから・・・先生と一緒にいてみたかったからその誘いにのった。
ベンチから立ち上がり、先生の元へ。
強風が吹き、また葉がさらわれていった・・・
End